INAC安本社長が描く“魅力ある新スタイル”の理想と女子サッカー界発展への思い
「INACは女子サッカーがもっとレベルを上げていくために役に立つ存在でありたい」
なでしこリーグは過去5年、“パスサッカー”と“ポジショナルプレー”を追求したベレーザが席巻。パスをつなぐスタイルはその他の女子クラブも参考にし、ベレーザの選手が数多く選出されているなでしこジャパン(日本女子代表)にも色濃く反映されている。男子サッカーで言えばバルセロナのそれに近いスタイルだが、安本社長は“INAC独自”のサッカーを確立したいと考えている。
「戦術は監督が100人いれば100通りあります。我々はまず、選手の特徴を生かすためのベースを築こうと。今シーズンのINACは止める・蹴るの基本的な部分からスタートしました。次に戦術です。日本ではポゼッション率ばかり見る傾向にありますが、正直後方でつないでばかりいてもあまり意味がない。守りのポゼッションもあれば、攻めのポゼッションもあるわけで、そこはゲルト監督が“ポゼッションサッカーの申し子”のような指導者なので、そこを最初から見抜いていました。打つ時は(シュートを)打つ。『なぜ(打てるのに)パスを出す?』とよく言っていますよ。練習試合で一番叫んでいるのは監督です(笑)。
監督がよく使う言葉が『ステップ・バイ・ステップ』です。昨日よりも今日、1%でも上がったらOK。それを今、積み重ねています。サッカー偏差値は、全国でも指折りの選手たちが来ているINACはもともと高いはず。彼女たちの自信を取り戻すことが、一番必要なことだと思います」
2018年10月に現職となった安本社長は、INACが女王の座を取り戻すだけでなく、女子サッカー界全体をリードし、発展に貢献できる存在でありたいと強い思いを口にする。
「なでしこリーグは魅力あるリーグだと思います。なでしこジャパンが2011年のワールドカップで優勝したのが何より大きいですが、一過性のものにしてはいけないし、当時見せてくれただけのポテンシャルは今もある。あの時代をリスペクトしながら、さらに上積みするためには、リーグ全体、女子サッカーに携わる人たちがもっとやれるんだと示すために何をすべきか、何が足りないのかを示さなければいけない。例えば岩渕(真奈)選手、あのテクニックは世界のどこに行っても通じます。鮫島(彩)選手もそうです。『岩渕さん凄い』と見上げるのではなく、一緒に組むんだという思いで田中美南選手が来たように、INACは女子サッカーがもっともっとレベルを上げていくために役に立つ存在でありたいです」
INACが“真の強さ”を取り戻した時、女子サッカーは現状から一歩前に進めるに違いない。
※取材はビデオ会議アプリ「Zoom」を使用して実施。
(FOOTBALL ZONE編集部・小田智史 / Tomofumi Oda)