佐藤寿人、“10年に1本”のループボレー弾 瞬時の閃きを生んだ1993年カズの一撃の記憶
93年W杯アジア1次予選タイ戦で三浦知良が決めたボレーシュート弾を練習した成果
だが、記者陣が本当の意味で、紫のエースの凄みに圧倒されたのは試合後、彼のコメントを取材した時のことだ。
「アメリカ・ワールドカップのアジア予選でカズ(FW三浦知良)さんのゴールを、イメージしたんです。たしか、タイ戦だったかな」
え、いつのゴールだ? 20年前のゴールをイメージして打ったのか?
「その時のゴールを小学生の時に見て、覚えていたんです。とにかくカズさんのあの試合でのゴールがかっこよくて。あれからずっと、そのシュートシーンばかりを練習していました。(GKの原)裕太郎に聞いてくれれば、たぶん『よく狙っています。練習どおりできましたね』と言われると思う(笑)。それに、ああいうシュートは、前も決めたことがありましたね。自分のイメージを可能にする技術は、練習の時から磨いていないとできない。後ろからポーンとボールを投げてもらって、そこから逆サイドを狙う。何度も何度もシュートを打って、自分の中での感覚を体に覚えさせるんです」
取材後、そのシーンを必死で検索した。
あった。
1993年4月8日、アメリカ・ワールドカップアジア1次予選日本ラウンドの初戦だ。タイは1次予選最大の敵と言われた強敵。ホームではどうしても勝利が必要だったこの試合で、“キング”カズは魅せた。MF森保一からFW福田正博へとつなぎ、そこからのループパス。距離は髙萩ほどではなかったが、プレスのかかった中央から裏のスペースを狙った見事なパスだ。そこに反応したカズは、大きなバウンドの落ち際をしっかりと叩き、ゴール右隅に叩き込んだ。ボールの軌道や距離などは違うが、確かにイメージはピタリと合う。
寿人は小学校の時に見たこのシュートを、ずっとずっとトレーニングしていた。20年前にテレビ画面で見たゴールを詳細まで記憶し、具体的に落とし込んでボールを蹴り続け、実際に決めきった。なんという記憶力だろう。なんというイメージ力だろう。なんという練習力だろう。