中村俊輔、Jリーグ史に残る「25m芸術FK弾」 衝撃の弾道を導いた“5分前のミス”

横浜F・マリノス時代のMF中村俊輔【写真:Getty Images】
横浜F・マリノス時代のMF中村俊輔【写真:Getty Images】

【J番記者が選ぶスーパーゴール|横浜FM編】2016年J1第1ステージ第5節G大阪戦(前半40分)…中村俊輔の芸術的な直接FK弾

 横浜F・マリノスの1点ビハインドで迎えた前半40分。獲得した直接FKのゴールまでの距離は約25メートルといったところか。助走地点に立って腰に手を当てる元日本代表MF中村俊輔(現・横浜FC)は、わずかながら微笑んでいるように記者席から見えた。

 この5分前、同じような位置で得た直接FKでゴールを狙った。しかし雨上がりでスリッピーなピッチに足を取られて転倒。キックミスになってしまったシュートは、珍しく枠を大きく外してしまった。

「1回目の場面はスパイクの側面が地面について、芝が濡れていたので滑ってしまった」

 横浜FMサポーターの期待の声は、ため息に変わった。代名詞でもある直接FKに並々ならぬこだわりを持つ男が、リベンジのチャンスに燃えないはずがない。

 集中力を高め、あえて軸足を強く踏み込むことを意識した。左足を鋭く振り抜いて放ったシュートは、いつもよりも速い弾道でゴールマウスへ。ガンバ大阪の日本代表GK東口順昭が必死に伸ばした手をかすめ、ネットを激しく揺らした。

 力強くガッツポーズを繰り出した。この一撃で停滞していたチームは息を吹き返し、2-1の逆転勝利の呼び水となった。

 試合後のミックスゾーンに現れた殊勲の背番号10は、普段通りさばさばとした表情でゴールシーンを振り返る。

「(壁の中の)右から3番目の選手の頭の上を狙った。軸足が滑らないことを意識したので、ボールの弾道を見ていない。パッと顔を上げたらゴールに入っていた」

 事もなげに言ってのけるから恐ろしい。

 横浜FM在籍時代、幾度となくビューティフルゴールを見せられてきたが、この日の直接FKは“衝撃”の一言。こけら落としから間もない吹田スタジアム(現・パナソニックスタジアム吹田)に駆けつけたG大阪サポーターも、感嘆の声を上げていたのが強く印象に残っている。

藤井雅彦

ふじい・まさひこ/1983年生まれ、神奈川県出身。日本ジャーナリスト専門学校在学中からボランティア形式でサッカー業界に携わり、卒業後にフリーランスとして活動開始。サッカー専門新聞『EL GOLAZO』創刊号から寄稿し、ドイツW杯取材を経て2006年から横浜F・マリノス担当に。12年からはウェブマガジン『ザ・ヨコハマ・エクスプレス』(https://www.targma.jp/yokohama-ex/)の責任編集として密着取材を続けている。著書に『横浜F・マリノス 変革のトリコロール秘史』、構成に『中村俊輔式 サッカー観戦術』『サッカー・J2論/松井大輔』『ゴールへの道は自分自身で切り拓くものだ/山瀬功治』(発行はすべてワニブックス)がある。

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