中村俊輔、W杯で輝けなかった「日本の至宝」 左足の超絶技巧は“議論の余地なし”

中村俊輔が躍動できる状況の試合がW杯ではなかった

 この大会の日本は、8年前に戻ったようだった。4年前のトルシエ監督が導入したフラットラインは受け継がれておらず、ディフェンスラインの低さが戦列の間延びを生み、この試合ではそれが戦術的な敗因になっている。酷暑の中で日本は疲弊し、オーストラリアのロングボールを跳ね返してもセカンドボールを拾われ続けた。オーストラリアのタフネスと空中戦の威力は強烈だったが、単純な縦への攻撃自体は4年前の日本の姿と重なる。

 トルシエ監督はラインコントロールを導入したが、中盤のライン形成は行っていなかった。加茂周監督の頃から2006年のジーコ監督に至るまで、中盤のライン形成は一貫してない。しかもジーコ監督がラインコントロールも捨てたので、守れる状態になかった。

 驚いたのは2戦目のクロアチア戦(0-0)だ。この試合の4-4-2では、きちんと中盤のライン形成ができていた。小笠原満男、中田英、福西崇史、中村のMF陣はジーコ監督の初期構想だった小野、稲本潤一、中田英、中村の日本版「黄金の4人」に近いテクニカルな構成。ここまでの日本のW杯9試合のなかで、実はこの試合が最もレベルが高い。ボール支配で日本、決定機でクロアチアという試合はスコアレスドローだった。

 4年後の南アフリカ大会、アジア予選は中村と遠藤保仁の組み立てを軸に攻撃的なプレーを志向していたが、大会直前に守備重視に変更し、阿部勇樹が4-5-1のセンターに入って中村は先発から外れた。

 こうして振り返ってみると、日本の誇る技巧派・中村俊輔が躍動できる状況の試合は、W杯でほとんどなかったことが分かる。潰し合いや守ってばかりの試合では生きない。そうかといって、技巧的でオープンなゲームだったクロアチア戦では勝ちきれず。日本の良さの一つである技術を押し出したプレーで成功を収められたのは、ようやく2018年のロシア大会である。ただ、この時も開始早々に10人になったコロンビアに1勝しただけで、残りの3試合は1分2敗と勝てていない。

 W杯で“日本の至宝”と呼ばれる選手が国民の期待と憧れを背負って活躍し、なおかつチームが勝利し続けるという状況には、今なお到達できていないのではないか。

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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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