ドイツ3部日本人アナリスト、3人の監督に学んだ指導術 「空気を読めない人は…」
【日本人アナリスト浜野裕樹の奮闘|第3回】ビクトリアケルンで触れたドイツ人監督の価値観
監督にはそれぞれ特徴があり、強みがあり、そして歴史がある。どんな監督も自分のサッカー観、日常での選手との関わり方、練習や試合での選手との接し方、コーチングスタッフや上層部との距離感のとり方を持っている。ドイツ・ブンデスリーガ3部のビクトリアケルンでアナリストを務める浜野裕樹も、いろいろな監督と一緒に仕事をしながら、その価値観に触れ、様々な現場を通して得た経験を自分の財産にしている。
例えば、現在ビクトリアケルンで監督を務めるパベル・ドチェフは今季、監督として3部リーグ最多タイとなる237試合という記録を達成している。新型コロナウイルスの影響でリーグ中断とならなければ、間違いなく単独での最多記録達成を果たしていたはず。3部で記録を達成したということは、2部以上のクラブからオファーが来ないということでもあるかもしれないが、そこから下のリーグへ下がることなく、3部で仕事をもらい続けてきたというのは凄いことではないか。そこに価値があるということなのだから。4部から昇格してきたビクトリアケルンがそんな彼の経験を頼りにしようとしたように、それだけで貴重な存在になる。
「パベルはすごいモチベーターという感じですね。選手を鼓舞する能力がとても高い。3部での経験が豊富だから、采配にしてもやるべきことが分かっている」
プロリーグをいかに戦うべきか。降格せずに生き残るためにはどうすればいいのか。初参戦となるビクトリアケルンにとって、そこでの戦い方を知るドチェフの見地はとても大切なものになっている。
出会いは自分だけでは選べない。いろんな巡り合わせから縁が生まれる。会うタイミングや順番が、大きな意味を持つこともある。そうした意味で浜野にとって幸運だったのは、経験豊富なドチェフの前に理論派指導者の下で一緒に仕事ができていたことだった。
最初、浜野をアナリストとしてビクトリアケルンに招いたパトリック・グリュックナーは、その2年前にプロコーチライセンスに合格していたので、良い意味で頭の中は知識でパンパンだったという。
「個人的に思うのは、順番が逆じゃなくて良かったなと。先にパトリックの下で知識を学ぶことができたのが、大きかったと思います。一緒に試合を観ながら『ここどうだろう?』という話をする機会が、たくさんありましたから。アナリストとして仕事をしながら、さらに指導者としての自分のためにもプラスアルファに勉強ができたら……というのは、ぼんやり思い描いていたんですけど、その通りになりました」
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。