ドイツ3部日本人アナリストの挑戦 最難関プロライセンス取得へ、来季狙うチーム内“昇格”

最初の“賭け”に勝利…「“いてもいい存在”くらいにはなっている」

 当時のビクトリアケルンは、それまで4部で7年もくすぶっていたが、大型スポンサーもついていて、昇格への金銭的な後押しもあった。ただ、もしあと1シーズンで結果が出なければ、その大型スポンサーも離れるかもしれない状況だったという。

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 悲願の3部リーグ昇格へ意気込むビクトリアケルンに、浜野も賭けた。上手くいけば3部リーグのスタッフになれるのだ。それまでにアナリストとして認めてもらい、そしてアシスタントコーチへと役職変更をお願いできるまでの立場を築き上げることができれば、目の前の景色は一気に開けてくる――。

 そして浜野は最初の賭けに勝った。ビクトリアケルンは昨シーズン首位で優勝を果たし、見事3部リーグ昇格を果たしたのだ。今季の役職はまだアナリストのままで、すぐの個人的”昇格”とはなっていないが、そう簡単にはいかないことは本人もよく分かっている。

「監督に『たぶん指導者としては、こいつ分かってないな』って思われたらダメじゃないですか。最初は全然聞いてこないんです。『今日の練習どうだった?』とかも聞いてこないんで、俺はじっと見てたりとか、観察してました。そしてポンと聞かれた時に、気の利いたことを言う。『これはこうだと思うんだけど、どうかな?』って。で、ふとした時に『ユウキ、どこまでライセンスを持ってるの? 今まではどんなところをコーチしてたの?』と聞いてくれたりしたので、『いや、俺はまだ大人は指導してないけどライセンスはA級まであって、将来的にはやりたいと思ってるんだ』ということを話しているんです。ちょっとずつ、ですね。今はそうした場に『いてもいい存在』くらいには、なっていると思います」

 もちろん、将来的に3部リーグでアシスタントコーチに就任できたとしても、それがそのままプロコーチライセンス講習会への参加が保証されるわけではないが、それでも今まで以上に近づけることは間違いない。ライセンス講習会に参加できたら満足、日本人初で獲得できたら満足かというと、決してそういうわけでもないのだ。どのクラスのライセンスであれ、それは自分がそこに時間と金と情熱を注ぎこんだ証明書となる。だが、本当の勝負がライセンスを取ってからなのは世界の理なのだ。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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