ドイツ3部で戦う日本人アナリストの挑戦 “W杯優勝”を支えた男が抱く新たな夢とは?

プロゾーンで活動しながら、ザンクト・パウリでの研修のチャンスを手にする

 選手間のコミュニケーションをスムーズにし、それがピッチ上でのプレー改善にもつながったと高い評価がされたため、 それを開発したSAP社とDFBとの協力がW杯優勝につながったという図式で書かれることが少なくなかった。

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「実際にはサッカーのデータで手助けをしたのが、プロゾーンという分析業界大手の会社だったんです。プロゾーンとSAPの共同で作り上げられたのがマッチインサイト。SAPの冊子には、ちゃんと『プロゾーンと協力』ということは明記されています」

 アナライズ、分析がチームにとって有益になるためには、どのようなことが必要なのだろう――そう考えるきっかけを得たW杯後、浜野の次の活動場所となったのがそのプロゾーンだった。

 アジア担当コンサルティングとして所属。現場と研究の橋渡しの重要性、どのような情報がお互いに求められているか、当時のドイツ代表と分析会社の協力体制について現場で学ぶ日々を過ごした。

 2017年夏には、2部リーグのザンクト・パウリで研修を受けるチャンスを手にする。

 つながりのあった指導者のオーラフ・ヤンセンがアシスタントコーチに就任したことで連絡を取ってみたところ、すぐ翌日に「お前、明日から来れる?」と連絡があったという。所属する宮市とのコミュニケーションをより密に取るため、通訳として呼ばれたものの、宮市自身のドイツ語力はすでに十分なものがあったため、通訳らしい仕事はほとんどなかったという。

「たぶん監督は(宮市と)戦術のこととか、1対1で話し合う時にちょっと不安だからいてくれ的な感じで呼んでくれたんだと思います。でも会って宮市選手と話してみたら、『全然話せてますね!』と。もちろん英語はペラペラだし、練習の際に監督が説明しているドイツ語の内容を『これって合ってますかね?』って確認するくらいで」

 通訳としての仕事はそれでほぼおしまいになってしまったが、浜野はその後もチームへの帯同を希望し、チームも浜野の思いを理解して許可をしてくれた。1カ月間限定とはいえ、プロチームとともに動く経験は貴重なものであり、またそこで築いた人間関係が次への扉を開く役割を果たしていく。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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