FC東京時代の強化担当が語る長友がたどった「成長のための五箇条」
語り継がれる練習試合
始まりから違っていた。立石は、「佑都は他の選手とは決定的に違うところがあった」と話す。一人の大学生がプロ入りを勝ち取るきっかけとなった練習試合 で、その場にいる全員の視線を集めた。当時の原博実監督は、その日の取材で「明治のあのサイドバックは良かったね。ギラギラしていてK-1の選手みたい だったよ」と、覚えたての長友の名前を挙げてたたえた。それにも訳があるのだと、立石は語る。
「佑都は、自らの価値を表現する天性の力を備えていた。そして、空気を読む力がない、というか空気を読む感覚がない。言い換えれば、その場の空気を変えてしまう。今考えてみれば、あの日の練習試合は彼のための試合だったようにすら感じる。そのくらいのインパクトがあった」
そして、特筆すべきは吸収力の早さと、感度の良さだ。彼には、プロ一年目の08年から成長を促す外的要因が数多く存在した。Jリーグデビューにはじま り、夏には北京オリンピックに出場。親善試合や国際大会に行くたびに課題を持ち帰って自らの糧とし、もちろんそこに至る過程での努力も怠らなかった。
「彼ほどロードマップがしっかりしている選手はいない。お手本のように目先の目標と、一年後の目標が明確にあった。だから、今日何をすべきかが常にある。そして満足しない。先にある自分の完成形を見据え、進化することを面白がれる」
立石は長友の口から何度も「まだまだ。これじゃ駄目なんですよ」というフレーズを聞いた。
「成功への鮮明な絵を描けていて、そこに近づく努力を日々できる。そういう選手はそうはいない」
初めての世界大会となった五輪は、予選リーグ3戦全敗で敗退。個人のパフォーマンスに目を向けても芳しい成果は上げられなかった。それまでの勢いに陰り が見えたかに思えたが、世界にはもっとすごい選手がいると知り、新たなモチベーションが生まれた。そのタイミングでA代表から声が掛かった。