「本番に強い選手を育てる」 メキシコのタフな“育成ピラミッド”、現地日本人コーチが解説
U-17のリーグ戦に設けられている「PK制度」
メキシコではU-17からは給料も発生し、プロの仲間入りを果たす。関係者によると、ケレタロではU-20の選手には7000~8000ペソ(約3万5000円~4万円)、U-17には4000~5000ペソ(約2万円~2万5000円)が月々支払われているという。メキシコの最低賃金が約6000ペソ(約3万円)であることを考えると、U-17の選手たちにとっては、金額的にはまだサッカーだけで食べていくには十分な額ではない。だが、一人暮らしをせず、結婚するまで実家暮らしを続けるのが一般的なメキシコの感覚からすると、レギュラーを獲れば年俸が1000万円を超えるトップでのデビューを目指す彼らに、プロとしての自覚を植えつけ、さらに稼ごうというハングリーさを持たせるには十分な額だ。
その他にも、メキシコならではのルールがある。U-17のリーグ戦にだけ設けられているPK制度だ。
同リーグでは試合で勝敗がついても引き分けでも、その結果にかかわらず、試合後にPK戦が毎節行われ、勝ったチームに勝ち点1が追加で与えられる。このルールの制定は、1994年アメリカW杯の決勝トーナメント1回戦で、メキシコがブルガリアにPK戦で敗れたことがきっかけだという。メキシコは86年W杯でも準々決勝で西ドイツにPK負けしており、W杯ではPK戦で勝ったことがない。8強の壁を打ち破るために、W杯本番でPK戦になった時に勝てるようにという狙いがあるのだ。
例えばベスト4に進出した2011年のU-20W杯では、メキシコは決勝トーナメント1回戦でカメルーンにPK勝ち。U-17W杯でも09年には決勝トーナメント1回戦でPK戦の末に韓国に敗れたが、13年大会の準々決勝ではPK戦で11-10という死闘の末にブラジルに勝利、準優勝を飾った。19年にも準決勝でオランダにPK戦で勝利し、準優勝するなど、年代別の国際大会ではすでに結果が出始めている。給田氏は「U-17は試合の前日は必ずPKの練習をしているし、勝てば勝ち点1をもらえるので緊張感がある。これを毎週やっているのは大きい」と明かす。
国内リーグの若手育成のルール整備とともに、メキシコサッカー連盟も年代別の代表選手たちに頻繁に海外遠征や国際大会を経験させ、世界のいろんな環境に慣れさせることで、本番に強い選手を育てようとしている。
U-23メキシコ代表でコーチを務める西村亮太氏は、「僕がメキシコに来た2010年の時から、それは感じていました。小さいうちから国際経験を積ませ、将来につなげようとしています。中には、年代別の代表歴がない選手がA代表デビューを飾ることもありますが、A代表に選ばれる大半の選手は年代別代表の経験者。U-17代表の選手には年の半分、代表で活動している選手もいるし、連盟もメキシコ国内での試合だけでなく、アジア、欧州、南米など、いろいろな場所に遠征させて経験を積ませている。メキシコは国内リーグの制度が上から下まで整っていて、常に競争もあるから、いい選手はポンポン上がっていけます」と、サッカー連盟、リーグの二本柱の育成プランが機能していることを強調する。