スタジアムが持つ多様な“顔” 多機能化の進む現代、コロナ禍で浮上した新たな使い方
【識者コラム】歴史と特色のある各スタジアム、ドルトムントが施設の一部を医療センターとして提供
スポーツ以外でいかに稼ぐか。
現代のスタジアムは多機能複合施設を良しとする。ショッピングができる、宿泊できる、コンサートを観られる……役所や医療機関まで入れて、街の中核を担うような建物とする構想もあるようだ。日本のスタジアムは、まだそこまでいっていない。ヨーロッパとの差はフィールドの中より、外のほうが大きいのではないかと思わされる。
日本にも、観戦しやすいスタジアムは増えている。ベガルタ仙台のユアテックスタジアム仙台は駅からも近く、スタジアムの臨場感も素晴らしい。ジェフユナイテッド千葉のフクダ電子アリーナは、練習場やショッピングセンターと理想的なセットになっている。だが、2002年までに建てられた日本のスタジアムは基本的にスポーツ専用だった。スタジアムの多機能化に着目されたのは日韓ワールドカップ直後からで、残念ながらタイミングが悪かった。
ドルトムントの本拠地ジグナル・イドゥナ・パルクは、ゴール裏だけで2万2000人を収容できる圧巻のスタジアムだが、先日、意外な使い方を提案していた。スタジアムの一部を医療センターに提供するというのだ。
「大きな待合室があり、人が離れた距離を取れて登録エリアもある。これ以上の施設はないだろう」(ハンス=ヨアヒム・ヴァツケCEO)
新型コロナウイルスの感染が広がるなか、スタジアムの医療センター化は新たな使い道である。
スタジアムは緊急時の避難場所としても考えられてきた。戦時下では物資の保存場所として利用されたこともあり、戦時中はよく爆撃のターゲットにもなってきた。マンチェスター・ユナイテッドの本拠地オールド・トラッフォードは第二次世界大戦中に爆撃を受けて破壊され、ユナイテッドは同じ街のライバルであるマンチェスター・シティのホームスタジアムを借りていた時期があった。
1973年、チリで軍事クーデターに成功して就任したアウグスト・ピノチェト大統領が、戒厳令下に反対派の市民をサンティアゴ・スタジアムに集めて虐殺している。スタジアムの死体は3000人近く確認されていて、暗黒時代におけるスタジアムの忌まわしい記憶だ。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。