「学校の先生」と「指導者」の両立は限界 部活での暴力行為が絶えない日本の現状
先進的な試みを実践する日本の指導者も多数生まれているが…
先日、日本と同じ文化的な背景を持つ韓国出身で、今季からジェフユナイテッド千葉を指揮するユン・ジョンファン監督にインタビューをする機会があったが、次のように話していた。
「若い頃はただ命令され、何も考えずに走らされていた。でもプロではそういうわけにはいかない。今は監督になって、選手たちには、なぜこのトレーニングが必要なのかをしっかり説明している」
プロはともかく大半のアマチュアの現場では、本来指導者は選手たちに雇われ、対価としてサービスを提供する立場になる。だから海外の指導者は、選手たちが速やかにトレーニングを進める準備のために率先して奔走する。ちなみに昨年J1リーグを制したアンジェ・ポステコグルー監督が率いる横浜F・マリノスのトレーニングも、スタッフがきびきびと動き、選手たちも水分補給はダッシュで移動し、淀みなく進められていくという。監督が汗一つ流さず、強面で一言二言指示を出せば仕事が終わる日本の実情とは180度異なる。
もちろん日本の指導現場にも、ユニークで先進的な試みを実践する監督やコーチも多数生まれている。だが長時間にわたる非効率なトレーニングを精神修行の手段との詭弁で強いる監督たちは、それが最善だと信じ込む選手たちを今でも生み出しており、このサイクルを断ち切るのは困難を極める。
いずれにしてもスポーツを文化として定着させ国際競争を目指すなら、もはや学校の先生と指導者の両立には限界がきている。
(加部 究 / Kiwamu Kabe)
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。