プレミアリーグの戦いを見誤ったファン・ハール監督 戦略家ゆえの誤算と開幕戦で香川が起用されなかった理由

香川が出番なしに終わったのは守備的な布陣を採用した影響

 ここでは少し横道にそれる話になるが、香川がこの試合出場しなかったのも、中途半端ではあったが、3バックの守備的な布陣を採用したファン・ハールの責任だ。

 まず、一人目のサブはリンガードの負傷に対応するもので、これは予定外だったが、開幕戦をプレーするには、完全にフィットしていなかったヤヌザイをやむを得ず使うはめになった。

 後半開始と同時に、ファン・ハールは3バックに見切りをつけて昨季の4-2-3-1に戻したが、エルナンデスとの交代で出場したのはナニ。ここで香川の出番もあったという意見もある。しかしナニを起用したのは、左SBにヤングを下げた結果だ。香川を使って、守備に不安がある急造SBヤングと左サイドでコンビを組ませるのは、あまりにもリスクが大きい。そこで縦に強いポルトガル代表MFを選んだ。

 最後にフェレイニが起用されたのも、消えていたエレーラ、マタふたりのどちらかにサブを送る選択で、この試合がプレミア・デビューで、悪かったマタよりさらに悪く、右往左往するだけだったエレーラ交代を優先させただけである。

 しかもフェレイニは最後の親善試合となったバレンシア戦でゴールも決めていた。

 一部の日本のメディアでは、この起用で香川の序列は開幕戦に間に合わなかったベルギー代表2人より下になった、さらに厳しいシーズンになったという報道もあったという。けれどもこの試合に限れば、両サイドの本職SB不在のチームで、これ以上守備を破綻させられないという、完全に戦略的な理由が優先された交代。チーム内の序列とは関係ない。

 それに香川の課題はあくまでマタを抜くことだ。スペイン代表トップ下とのチーム内争いに勝つこと以外に、香川のレギュラー奪取はない。

 そういう意味では、初戦、マタが輝けなかったのは朗報だ。一刻も早くチャンスをつかみ、スペイン代表MFを上回る活躍をすることでしか、香川が念願とするマンチェスター・Uレギュラーの道は開けない。

 しかしその一方、このしょぼい敗戦で、開幕直前は6倍だった優勝オッズが11倍に急落したマンチェスター・U。名将ファン・ハールが登板したとはいえ、プレミアの真剣勝負に対する誤算をすぐさま矯正し、現メンバーから早急に最強チームを築かなければ、強豪の復活にはまだまだ時間がかかることになるだろう。

【了】

森昌利●文 text by Masatoshi Mori

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