プレミアリーグの戦いを見誤ったファン・ハール監督 戦略家ゆえの誤算と開幕戦で香川が起用されなかった理由
プレミアリーグの戦いを見誤った名将
この2強に比べると、アーセナル、リバプールの開幕勝利は、ともに1-1の状態が長く続き、試合終了間際に決勝点をやっとのことでもぎ取る2-1勝利で、格下相手にホームで手こずったという印象は強く、やや評価は下がる。
もちろんアーセナルはエジル復活で、さらなる上がり目はあるが、クオリティのある攻撃陣が創造性を増したチェルシー、力強さが図抜けたマンチェスター・Cとの比較で絶対的な凄みが足らない。
リバプールは、先発メンバーを見れば一目瞭然だが、スアレス不在のイレブンでは相手チームに与える脅威は半減。残念ながら今のところウルグアイ代表FWの穴は埋まっておらず、そこそこのチームで4強争いには加われそうだが、優勝争いは厳しい。
さて、前置きが長くなったが、ここから問題のマンチェスター・Uだ。
ホームで行われた開幕戦を負けたのは、1972-73年シーズン以来42年振り。第1節の結果としては、最大の番狂わせとなり、英メディアの反応も一番大きかった。
2-1で負けたスウォンジー戦直後、ファン・ハール監督は、「ホームで行われた開幕戦で負けた。これ以上悪い結果はない。チームとしてプレーできなかった。とくに前半、選手がナーバスに見えた」と語り、選手が個の能力をチームとして発揮できなかった、すなわち連携しきれなかったこと、また精神面の弱さがあったことを敗因として示唆した。しかしそういうオランダ人名将自身に誤算はなかったのか。
あったとすれば、それはいわゆる“プレミアの洗礼”という部分だろう。下位クラブにも潤沢なテレビ放映権料が分配され、ある程度の戦力が揃うプレミアリーグ。そこではイングランド・クラブサッカー特有のフィジカルな真剣勝負が展開される。
こうした環境で、プレミア未経験のファン・ハールが、本人が高名な戦略家だからこそ、見誤った部分もあるのではないか。
2004-05年からリバプールの指揮を取ったベニテス監督は、就任1年目で欧州CLを制し、戦略家としてその名を高めたが、プレミアではイングランドのフィジカルを過小評価し、結果的に勝ち点を落とす試合も目立った。つまり、相手の戦力を的確に読むのはいいが、肉弾戦における真剣勝負のプラスアルファ、意外性の部分を読み切れず、常識的な範囲での選手起用に終始して、勝てる試合を引き分けにし、引き分けられた試合で負けたという印象がある。
そうした誤算をファン・ハールもこの開幕戦で犯したのではないだろうか。
まずその誤りは、両サイドふたりの起用に表れている。3-4-2-1のフォーメーションで、攻守の鍵を握るのは両サイドの選手だ。
基本的に3バックは、通常両サイドはSBの選手が務め、守備時には5バックになるシステム。守りを重視したフォーメーションというのが常識だ。だから逆説的にいうと、ゴールを奪うにはこの両サイドの選手の攻撃能力が非常に重要になる。
と一応3バックについて前置きしておいて、ここでこの開幕戦、ファン・ハールが3-4-1-2を採用した核心に触れてみたい。それはこの開幕戦が行われた8月16日夜に放映された、プレミアのハイライト番組『マッチ・オブ・ザ・ディ』の中で、ゲスト解説者に招かれていたルート・フリットの発言の中に偶然現れた。