メッシも俊輔も“利き足”で磨いた別格の武器 「器用」を優先させる指導方針に疑問符
【識者コラム】世界では利き足が優先、イニエスタもモドリッチも逆足はほとんど使わない
なでしこジャパン(日本女子代表)が苦戦している。シービリーブス・カップ初戦では、本来のポジションではないサイドバックで起用された遠藤純(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)のサイドから失点し、スペインに1-3で完敗した。
高倉麻子監督は年代別代表の時代から、遠藤を非常に高く買っている。たぶん今回は鮫島彩(INAC神戸レオネッサ)が故障中ということもあり、遠藤を新境地に挑戦させた。だが反面、遠藤は1列前のアタッカーとして国際舞台に出場しても壁を破れずにいた。スピードあるレフティーとして稀少価値を認められているのだが、肝心な利き足のキープ力が未成熟で、1対1で仕掛けても不得意な右足に逃げてミスが出る。結局縦への突破に自信が持てなくなると、バックパスで逃げるという悪循環にはまっていた。
なでしこジャパンの選手たちは、良く言えば器用だ。遠藤に限らず、同じレフティーの杉田妃和(INAC神戸レオネッサ)も右足を頻繁に使うし、籾木結花(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)も右足のキックを厭わない。引退した宮間あやさんや、U-20日本女子代表として活躍した田中陽子(スポルティング・ウエルバ)も両足でFKを狙えた。
だが世界を見渡せば、男子でもウスマン・デンベレ(バルセロナ)のように利き足の判別が難しい選手はほとんど存在しない。ディエゴ・マラドーナ氏やリオネル・メッシ(バルセロナ)が左足でボールを扱うのは誰もが分かっていても止められなかったし、日本でも中村俊輔(横浜FC)や名波浩氏は左足1本で別格のファンタジーを備え、それが十分に武器として輝いていた。
かつてブラジルに渡りポルトゲーザでプロ契約をした檜垣裕志氏によれば、基本的に南米には利き足以外を使う選手はいないという。「原点が遊びなので、ボールを奪われないことが優先されるので、自然と利き足を使ってキープすることが身に着く」そうである。ただし前述のメッシは言うに及ばず、育成組織が整備されたバルセロナで育ったアンドレス・イニエスタ(ヴィッセル神戸)やシャビ・エルナンデス氏も、実は厳しい局面で逆足を使うことはほとんどない。2010-11シーズンのUEFAチャンピオンズリーグ決勝で、シャビ氏は364回ボールに触れ、逆足のタッチは37回。特に2タッチ目と3タッチ目に絞れば、合わせて3度しか逆足を使っていない。一見器用そうな印象を与え、四方からプレッシャーを受けるMFでプレーするルカ・モドリッチ(レアル・マドリード)でも、ロシア・ワールドカップ決勝で90%以上は右足でさばいている。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。