久保への“つり目ポーズ”と「差別意識のない差別」 お咎めなしなら根絶など夢のまた夢
いい大人がやった行為だけに“無知”ではすまされない
差別は世界中の至るところにある。悪意のある差別もあるが、特に悪意がなくても差別は発生する。小学生ぐらいの子供は、何か自分たちと違う容姿の人を見ると、面白おかしくからかったりするものだ。それは彼らに悪意があるのではなく、単に無知だからだ。
マジョルカの「細目」の一件は、いい大人がやったことなので無知ではすまされない。くだんのフィジカルコーチには厳しい批判が向けられているという。少し気の毒ではあるが仕方ない。社会的な制裁を受けて然るべきである。
かつて、フィールド上には差別的な言葉が氾濫していた。現在も同じかもしれない。そのほとんどは、大した差別意識もなく発せられている。例えば、相手チームの黒人選手には差別的な言葉を吐いても、チームメートの黒人選手にそんなことはしない。単に下品なだけで、罵詈雑言の一つだと思っていることが多い。それだけ差別的な言葉というのは、世の中に広く深く浸透してしまっているということだ。
放っておけば、人間は人間を差別すると言っていい。だから教育が必要で、うっかりやってしまった時は厳しくかつ徹底的に糾弾しなければならないわけだ。今回のスペインの一件がお咎めなしなら、リーガの意識もその程度ということになり、フィールド上からの人種差別の根絶など夢の夢ということなのだろう。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。