久保への“つり目ポーズ”と「差別意識のない差別」 お咎めなしなら根絶など夢のまた夢
【識者コラム】マジョルカで起きた久保への人種差別行為、悪意がなくても差別は発生する
小学生の頃、祖父と川崎球場へプロ野球を観に行った。大洋ホエールズと阪神タイガースの試合だったと記憶している。阪神にウィリー・カークランドというアメリカ人の選手がいて人気があった。いつも爪楊枝をくわえていた。
「くろんじん、ガンバレー」
私がそう声援を送ると、阪神ファンの祖父は言った。
「それはアカン。応援するならカーク、カークや」
小学生の私に差別意識はなく、カークランドを応援しているつもりだった。祖父がなぜ「くろんじん」を却下したのか理解できず、なんとなく気に入っていた造語にケチをつけられたような気がして、ちょっと不機嫌になったのを覚えている。祖父からは、黒人選手への差別になるからダメだという説明もなかった。ただ、言われると、やっぱり何かまずいのだろうということは分かった。調子に乗ってスベった自分が、恥ずかしかった。
リーガ・エスパニョーラ第23節で、マジョルカの日本代表MF久保建英が人種差別されたのではないかというニュースが流れた。久保はエスパニョール戦の後半20分に交代出場しているが、その際にアップしている久保を呼ぶにあたって、フィジカルコーチが指で両目の端を引っ張って目を細める動作をしていたのだ。「交代出場は日本人だ」と、仲間に伝えるためのジェスチャーだった。
目を細めるジェスチャーは、東洋人を差別する時によく使われる。ただ、これをやったのはマジョルカのフィジカルコーチなので、自分のチームの選手を差別するとは考えられない。リーガも「差別意識はなかった」として、特に罰則は与えなかった。
しかし、これは人種差別そのものだ。そのつもりがあろうがなかろうが、行為自体がアウトである。むしろ差別意識がなく差別をしているという点で、問題はより根深いのかもしれない。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。