日本は「東南アジア勢にとってのブラジル」になれるか ACLで実感、Jリーグに迫る脅威
【識者コラム】FC東京がセレスネグロスを破りACL本戦出場決定、長谷川監督も安堵
AFCチャンピオンズリーグ(ACL)のプレーオフで勝利し、無事本戦への進出を決めたFC東京の長谷川健太監督は、開口一番に語った。
「これがJリーグ代表としての責任。でも本戦へ向け、さらに上げていく必要がある」
同日には鹿島アントラーズが敗れた現実があるだけに、安堵の実感が込められた。
積雪から雨に変わった東京スタジアム(味の素スタジアム)は、極端に水はけが悪く、いくら蹴ってもボールが止まる悪条件。「両チームともに難しく、誰も望まない状況」(セレスネグロスのリスト・ヴィダコヴィッチ監督)で、どちらもキック&ラッシュしか選択の余地がなく、パワーに勝るFC東京が2-0で振り切った。
ただし、ほとんどサッカーの質を推し量る材料が乏しい試合からも、東南アジア勢との力の差が着実に縮まってきていることは見て取れた。
フィリピン王者のセレスネグロスは、タイのブリーラム・ユナイテッドとASEAN地域のトップランクを競う強豪チーム。仙台大学出身の嶺岸光を筆頭に大半がフィリピン代表で、オランダ、ドイツ、イタリア、ベルギーなど様々な国籍を持ち合わせる選手たちで構成され、そこにスペイン、セネガルなどからの助っ人が加わっている。歴史を辿れば、20世紀中の両国代表対決では二桁得点も記録されたが、フィリピンも国際色が豊かになり急成長を遂げている。
例えば、先述の嶺岸は仙台大学を卒業すると母側の祖国フィリピンに渡り、2017年には同国リーグの得点王を獲得。「テクニックの差はあった」と振り返るが、「1対1で仕掛けるのが持ち味」と言う通りに、劣悪コンディションでも相手の狙いの裏を取り複数の選手をかわしシュートに持ち込むなど、創造的な資質の一端を見せた。
また、もう1人の日本人で東京出身の小田原貴も、長身のボランチとして途中で頭から出血しながらも奮闘。「FC東京は日本のトップレベル。賢く質の高い選手が多かった」と話したが、しっかりと存在感を示し、ホームのサポーターからもエールを受けていた。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。