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内田篤人はなぜ代表引退を考えたのか 試練が気づかせてくれた“本当の気持ち”
「俺、これからホテルに戻ったら、ザック(アルベルト・ザッケローニ監督)の部屋に行こうと思っている。もう代表には呼ばないでくださいって、お願いしに行こうと思っている。もう、ずっと悩んでいたから」
2012年2月、日本代表のブラジル・ワールドカップ(W杯)のアジア3次予選ウズベキスタン戦が行われた豊田スタジアム。
試合後の取材エリアでは、締め切り時間が迫る記者たちが、取材の輪から輪へと早足で移動していた。時折、携帯電話の呼び出し音が聞こえてくる。そんな雑踏の中で、内田が“日本代表引退”という重大な決意を口にした。
ザックジャパン発足当初から、不動の右サイドバックとして実績を積み上げていた。チームはこの日、ウズベキスタンに敗れたとはいえ、アジア予選を通じて順当に白星を重ねている。何よりも内田はまだ24歳で、これからを期待できる年齢だった。
決断の裏には、現状に対する多くの疑問があった。
「中途半端になるのが一番嫌だった。欧州から日本に移動し、代表戦をやって、また戻って試合をする。状態が良くないまま、ずっと試合を続けている。もう4年以上、代表にいさせてもらっているから、この日程でも、やらなければいけないのが宿命だと分かっているつもり。
でもね、このまま続けていったら、日本代表でも、シャルケでも良い結果につながらない。全部が中途半端になってしまう気がして……。『このままでいいのかな』という気持ちで国を背負って戦うことは、応援してくれる人や、他の選手にとっても失礼だと思っていた。だから、どこかで区切りをつけなければいけないと思い始めた。これは身勝手かもしれないけれど、このままじゃいけないと思った。代表にも迷惑を掛けてしまう」
シャルケはドイツで、バイエルン・ミュンヘン、ドルトムントに次ぐビッグクラブだ。毎年のように欧州チャンピオンズリーグに出場し、10-11シーズンではベスト4に進んでいる。
日本では、本田圭佑が所属するACミランや、長友佑都が在籍するインテルの方が広く認知されている。だが、内田が移籍した10年以降のシャルケが、その2クラブよりも好成績を収めていることは明らかで、現状では格上と言える存在だ。
当然、ポジション争いは熾烈を極めた。各国代表の主力が揃い、毎年のように選手が移籍加入する。内田と同時期には、スペインのレジェンドとして知られるラウール・ゴンザレスがレアル・マドリードから移籍してくるなど、常にハイレベルな選手が所属してきた。その中で、日本人の内田が定位置を確保するためには、常に万全の状態を保つことが大前提。その上で、結果を残すことが求められる。けがや代表戦の影響で調子を落とせば、居場所は瞬時になくなってしまう。
現役代表選手としては口にはしにくいが、海外クラブに所属する選手であれば、多かれ少なかれ抱えているジレンマに違いない。その中でもとりわけ「中途半端」を嫌う内田は、このままの気持ちで代表に名を連ねることを良しとはしなかった。
決意は固いように見えた。