ドイツで指導する日本人コーチの「Jリーグ失点分析」 “GK視点”で見たブンデスとの差とは?
シュツットガルト下部組織でGKコーチを務める松岡氏 “GK視点”でJリーグとブンデスの失点を分析
横浜F・マリノスの15年ぶりのリーグ優勝で幕を閉じた2019年シーズンのJ1リーグでは、全34節(306試合)で計797のゴールが生まれた。今回はドイツの名門シュツットガルトのU-14、15チームでGKコーチを務める松岡裕三郎氏にJ1リーグの失点分析を行ってもらい、ブンデスリーガ(2018-19シーズン)のデータと比較してもらった。
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失点分析から、両リーグのどのような違いが見えるのか。松岡氏は、「Jリーグはブンデスに比べてGKの技術的なミスによって生まれた失点が多かった」との課題を指摘した。
J1リーグの失点分析(2019シーズン)
はじめに、2019年J1リーグで生まれた「797ゴール」のうち、失点シーンの上位4パターンを紹介します(カッコ内の数字は全体に対する割合)。
【1/失点シーン(上位4パターン)】
■ペナルティーエリア(PA)内のシュート:263ゴール(33%)
■センターリング、クロスからのシュート:152ゴール(19.07%)
■マイナスボールからの失点:87ゴール(10.92%)
■GKと1対1からの失点:65ゴール(8.16%)
最も多かったのは実に全体の3分の1を占めたPA内のシュート。これにはドリブルからのシュート、味方からのパスを受けてのシュートだけでなく、一度GKやDFに弾かれたボールをゴールに押し込む形も含まれます。
2番目に多かったのはサイドからのセンターリングとクロスを起点に生まれたゴールで、全体の約5分の1に相当。3番目はゴールライン付近から中央付近にいる選手にマイナス方向のパスを出してゴールにつながった場面で約10%。決定機と言える場面の多いGKとの1対1から生まれたゴールは約8%ほどでした。
次にJリーグの全失点をGKの視点から見ると、次のように分類されます。
【2/GK視点の失点分類】
■GKが失点に関与しない、防げない失点:326ゴール(40.9%)
■GKが防ぐことができる、改善できる失点:365ゴール(45.8%)
■GKのミスによる失点:106ゴール(13.3%)
「GKが失点に関与しない、防げない失点」は、明らかにシュートが良くて防げないものやペナルティーキック(PK)、シュートが味方または相手選手に当たってコースが変わって反応できない、予想だにしないオウンゴールなどが該当します。
GKコーチとして特に注目すべきは、「GKが防ぐことができる、改善できる失点」と「ミスによる失点」です。これら2つの失点につながる原因については、さらに以下のように分類することができます。こちらも上位4パターンを紹介します。なお、失点には必ず一つ以上の原因があるものとし、二つ以上の原因がある場合もあります。
【3/GKの失点要因(上位4パターン)】
■GKテクニック:332ゴール(70.64%)
■ポジショニング:273ゴール(58.09%)
■判断:138ゴール(29.36%)
■ぶれない、先に倒れない:103ゴール(21.91%)
「GKテクニック」は、キャッチやボールに対してダイビング、コラプシング(※注1)、ディフレクティング(※注2)、フットブロック、1対1でのブロックなどのゴールを守るうえで必要なテクニックのこと。J1ではこの「GKテクニック」に関するミスによって生まれた失点が、非常に多いことが分かります。
※注1:足もとのシュートをセーブする際に倒れるのではなく、足を払って抜く技術
※注2:指先でボールを弾く技術
「ポジショニング」は主に相手がシュートを打つ時のGKの立ち位置や、1対1で対峙した相手との距離感のこと。適切なポジションを取ることで防げたはずのゴールも、全体の58%以上に及びます。
「判断」はゴールディフェンスからスペースディフェンスへ、ゴールディフェンスから1対1への切り替えや飛び出しの判断が遅れること、または判断ミスによって失点するケースです。「ぶれない、先に倒れない」は、相手のプレーを予測してその予測が当たらずに失点することや、至近距離からのシュートや1対1でGKの重心がぶれて反応できない、または後ろに倒れてしまうケースのことです。
言葉だけで説明するのは難しいのですが、例えば2018年ロシア・ワールドカップの日本対ベルギー戦で、乾貴士選手が決めた2点目のミドルシュートは「GKが防げる、改善できる失点」に該当します。その原因はベルギー代表GKティボー・クルトワ選手の「ポジショニング」と「GKテクニック」にあると考えられます。シュートの際のポジショニングが少し高かった(ゴールラインから前に出ていた)ことと、ダイビングする時の左足の一歩が少し内側に踏み込み過ぎていることに注目して見てください。
クルトワ選手はシュートに対して時間がなく、踏み込む一歩が悪かったために遠くにダイビングできていませんでした。この場面では、香川真司選手が乾選手にパスをした際に、一歩後ろに下がり、ボールとの距離を取ってポジション修正すべきでした。また、ダイビングする際の左足の一歩をより外側に踏み込んでいれば、より遠くに飛べ、防ぐことができたと思います。