南野拓実を導く“アンフィールドの魔法” 「思い込んだら命がけ」のリバプール人気質とは?
デビュー戦でマージーサイドダービーの熱狂を味わった意味は大きい
これは余談だが、いわゆるリバプールの訛り、有名なスキャウス・アクセントにも触れてみたい。
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何を話しても、同じことを話しても、リバプールの訛りで語られると愉快に聞こえてしまう。実際、リバプール出身のコメディアンは多いし、彼ら彼女らがテレビに出て口を開いただけで、その場の雰囲気がユーモラスになる。
筆者は日本の友人に、そんなリバプールの存在を関西にたとえることがよくある。実質的で首都東京人の気取ったところに反発して、面白い関西弁でなんでもかんでも笑い飛ばしてしまう。在英歴が四半世紀を過ぎ、最近の様子は分からないが、筆者が日本にいた頃の阪神タイガースファンの熱狂は有名だった。
リバプールにも、そんな大阪に似た熱狂がある。しかも港街で気が荒く、一本気な気質もある一方、海外からやってくる様々な人間を受け入れる器の広さや陽気さもある。
話が脱線していると思われる読者には申し訳ないが、こうした気質のサポーターが一糸乱れぬ声援をすることで、リバプールの選手を成長させるという一面があるのだ。
加入順に記すと、ドイツではやや平均を上回る程度の評価だったFWロベルト・フィルミーノ、また圧倒的な決定力を見せることもあったが、90分間フルで集中力が持続しなかったFWサディオ・マネ、一度はチェルシーで挫折したFWモハメド・サラーの3人が、リバプールで花開いたのも、アンフィールドの声援に後押しされた部分があるはずだ。
もちろん、近年のアンフィールドを一つにまとめたのは、そんな燃えるリバプールを鼓舞するにふさわしい闘将ユルゲン・クロップだ。それにクロップには冗談好きで、スキャウスに通じるユーモラスな一面もある。まさにリバプールにとって、これ以上望めない個性の監督だ。
確かに南野が言うように、デビュー戦から結果を残したかったという思いは分かる。しかし初戦から、エバートンとのマージーサイドダービーという舞台に上がって、選手としてはこれ以上ない「最高だ」と思えるアンフィールドのピッチを体験した。
これが何よりも大きいのではないか。このアンフィールドでプレーすることの喜びをしっかりと享受する感受性があれば、きっと南野もリバプールで大きな花を咲かせるに違いない。しかも南野はリバプールと似た関西・大阪の出身で、きっとこの街に上手くはまってくれるのではないか。
フィルミーノが、マネが、そしてサラーが潜在能力のすべてを引き出されたように、クロップとスキャウスの赤い闘魂が南野の持てるすべての才能をアンフィールドで開花させるに違いない。
森 昌利
もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。