伝統の“静学スタイル”と5戦無失点の堅守 「守りのチームではない」に滲む24年ぶりVへの覚悟
人技を支える切り替えの早さ DF阿部「連係する動きが自然とできるように…」
大会が関西から首都圏開催に移行した1976年度の第55回大会に初出場して準優勝。埼玉・浦和南と5-4の死闘を演じた決勝は、高校サッカー史に残る名勝負として語り草になっている。当時の井田勝通監督は、浦和南に3点リードされても「急ぐな、ゆっくり攻めろ」と指示。長いキックは使わず、ドリブルと短いパスで攻め、GKはキックをせずに手でDFに渡すという最先端の戦術だった。
しかし、時代が変われば戦術も大きく変化する。チームの最大の強みは攻撃力ではなく、組織的な守りが完成していることにある。多くの選手が攻守の切り替えの早さこそが持ち味であり、特長だと言う。
練習グラウンドは半面しか使えず、狭いピッチで取り組む。これも守備から攻撃へ即座に切り替えるのに役立っているそうだ。主将でセンターバックのDF阿部健人は「ボールを失った瞬間にサポートが入り、みんなで連係する動きが自然とできるようになった」と説明し、「ウチは高さがないのが弱点ですが、セットプレーでは高い集中力で守っていることも無失点につながっています」と、門番は胸を張った。
昨夏のインターハイ予選決勝で清水桜が丘に2-3で敗れてから、一層守備意識が高くなった。攻撃だけでは勝てない、というのがチームスローガンに加わったのだ。ボランチのMF藤田悠介は、「ウチはドリブル中心の個人技で攻めるので、どこかで必ずミスが出る。それを補うには切り替えを早くすることが大事だと痛感し、ボールへの集中力と素早い出足を心掛けています」と言った。自慢の攻撃陣は自分たちで支えている、という自負心をのぞかせた。
互いに攻撃のタレントを揃える青森山田と決勝で対決する。面白い試合が期待できそうだが、川口監督は「ウチの長所を120%出さないと勝てない。守りのチームではないので、失点覚悟でリスクを冒してでも点を取りにいきたい」と決勝を展望した。
守りのチームではない――。確かに攻撃が得意のチームだが、選手の体の中には守りの意識がすっかり染み込んでいる。
(河野 正 / Tadashi Kawano)
河野 正
1960年生まれ、埼玉県出身。埼玉新聞運動部で日本リーグの三菱時代から浦和レッズを担当。2007年にフリーランスとなり、主に埼玉県内のサッカーを中心に取材。主な著書に『浦和レッズ赤き激闘の記憶』(河出書房新社)『山田暢久火の玉ボーイ』(ベースボール・マガジン社)『浦和レッズ不滅の名語録』(朝日新聞出版)などがある。