森保監督のサッカーが“見えない” パターン化した言葉、漫然と戦ったチームの姿
どうやって点を取るつもりなのか、サウジ戦の日本からは見えてこなかった
現在の日本代表を率いる森保一監督は、ハリルホジッチ氏やゴーン氏とは真逆の、もの凄く抑制の効いたコメントの出し方をする。ある種、官僚の答弁のようだ。ファン、サポーターへの感謝から始まり、見たとおりの試合経過の説明から、「次へ向けて頑張ります」的に締めれば一丁上がりだ。完全にパターン化していて、まるで時候の挨拶を聞くような気分にさえなる。
もちろん、森保方式の良さもあると思う。話し方は丁寧だし、どこにも失礼がなく、失言もゼロだ。ただ、何かを話したい人の喋り方ではない。話したいことが次々に溢れてくるタイプでは全然ない。できれば何も話したくない人の話し方だ。
話したいことがないのは構わない。でも、やりたいことがないのは困る。森保監督も、やりたいことは沢山あるはずだ。きっと、彼がチームに植え付けようとしていることは、あまりにも日本サッカーの現状と同化しすぎていて見えにくいだけなのだろう。赤色の絵の具に黄色を垂らそうとしたハリルホジッチ監督と違って、灰色に少し白色を落とした程度なので目立たない。
U-23アジア選手権の初戦(サウジアラビア戦/1-2)を見ると、どうやって点を取るつもりなのか見えてこなかった。戦術がない、何も準備していないチームのようだった。良くも悪くも引っかかりがない、良くも悪くも違和感がない。ただ漫然とプレーしているだけに見えた。
先日、パブロ・ピカソの製作過程を追った古いドキュメンタリー映画を観た。太陽の降り注ぐ海辺のリゾートを描いていたら、どんどん塗り重ねていって、家も海もなくなり、何十人かいたはずの人間は3人になって巨大化し、太陽は消えて夜になり、ついに暗黒になってしまった。「どんどん悪くなる」「これは酷いな」と、ピカソ本人が話していたのには笑ってしまったが、「うん、描きたいものが分かった」と言ってイチから描き直したものは、ピカソ的な華やかなリゾート地の絵になっていた。最初の絵を見ていないとそうとは分からないかもしれないが……、ライオンを三頭ぐらい食った人の仕事だと思った。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。