19歳日本人MF、独1部クラブと“プロ契約” 家族の支えに感謝「完璧にサポートしてくれる」
母親は食事面でサポート「栄養に関するライセンスをドイツで取ってくれて…」
アペルカンプの母は、息子のために自分ができることを探してサポートし続けていた。自分のサポートが負担にならないように、普段の生活の中で自分ができること。食事にもっと気をつけてあげたい。強い体、怪我をしにくい体を作るためにはどんな栄養が必要なのだろうか。一念発起して動き出した。
「普段の生活から栄養にはとても気を遣っています。お母さんが栄養に関するライセンスをドイツで取ってくれて、完璧にサポートしてくれているんです」
温かい家族の支えがあったから、サッカーと学業に集中して取り組んでくることができた。一歩一歩、懸命に階段を駆け上がり、みんなの力で初めて勝ち取ったプロ契約だ。
だが、ここがゴールではない。
「自分のU-19の監督も言っていました。『最初の契約じゃなくて、その次の契約がもっと大事だ』って。今、契約ができたからとリラックスできるわけではないですし、ここからが始まりなので……」
アペルカンプはそう言った後、グッと顔を引き締めて続けた。U-23からトップチームへの壁を乗り越えるためには、まだまだ取り組まなければならないことがたくさんある。これまでプレーしていた年代別リーグではなく、U-23は成人男子4部リーグに所属している。元プロ選手もたくさんいる相手に大事な経験を積み、そこで身につけたものを実際のプレーへと還元していくことが求められる。
ホッとしている暇はない。プロ契約を結んだものの、トップチームでデビューすることなく消えていった選手は多いのだから。だからといって、上手くいかなかったらどうしようと心配したりする必要はない。上手くいくために、まっすぐに正しい努力を重ねていくことが大切だ。
「試合に出るために毎日毎日100%で、監督にいいパフォーマンス、自分が出たいというのを見せないといけない。1%でも気を抜いたら、1%でも緩めてはダメなんです。今までより、もっともっとやっていかないと。頑張ります!」
張りのある声で、アペルカンプは力強く答えた。無数の可能性の中から、どんな道を築き上げていくのか。自分を信じて、助けてくれる家族の支えを力に変えて、これからも前を向いて歩いていく。
(第4回へ続く)
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。