リバプール南野、クロップ“第2世代”への挑戦 “完璧を求めない”名将も確信「ウチにフィットする」

選手個々の能力を最大限に引き出すクロップの“包容力”

 この新加入選手に対して示された徹底した擁護――。

 地元記者の質問は、リーグ戦も折り返し地点を過ぎた1月は30年ぶり、そして1992年にプレミアリーグが創設されてから悲願の初優勝を狙ううえで重要な時期、そこで新加入選手を起用すれば「使われるほうにも重圧がかかるのではないか」という意図だったと思う。だが、クロップは“南野には余計な重圧は与えない”という強い意志を見せ、「プレッシャー」という言葉に対し「ノー・プレッシャー」とはねつけた。

 日本代表MFに対するこの正直さと気配り。そして、ここで冒頭の言葉を振り返ってみたい。

 それは筆者が「今のリバプールはあなたの理想とするサッカーチーム、または完璧なサッカーをするチームに近づいていると思うか?」という質問に対し、クロップが以下のように真摯に答えてくれた後に続いた一節だった。

「相手もミスなく完璧なプレーをして試合に勝とうとするフットボールの試合で、自分が思い浮かべた通りに終わる完璧な試合などない。だから完璧を求めたこともない。ただし、完璧な瞬間はある。それは私が思うに、例えばマンチェスター・シティ戦で2点目を奪った瞬間だ。

 トレント・アレクサンダー=アーノルドが“一体どこからやって来たんだ?”というボールを蹴って、サイドチェンジをした左サイドに(アンドリュー・)ロバートソンがいて、その2タッチ目にまた逆サイド目がけて強いボールを蹴った。その先に、どこからともなくモー・サラーが走り込んで、ワンバウンドしてあんなに合わせるのが難しいボールを、ドンピシャのヘディングで合わせて相手のゴールネットを揺らした。あの瞬間は完璧だった。しかしフットボールの試合は、そんな完璧の連続ではない」

 こう語った後、冒頭の「我々の人生は完璧な瞬間を追い求めるより、失敗と向き合うことのほうが多い。それはフットボールも全く同じだ」という言葉が続いた。

 ビッグクラブでビッグマッチの連続を戦うアタッカーにとって、決定機を外した瞬間は、まさに悪夢そのものだろう。

 しかし、監督がこうした考えの持ち主で、その哲学が浸透すれば、決定機を逃してもすぐに“人間にはミスがつきもの。次がある、次こそ決めてやる”という意識に切り替えられるのではないだろうか。

森 昌利

もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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