「ちょっと比べられない」 19歳日本人MF、ドイツで挑む夢のブンデス出場と学業の両立

高まるブンデスデビューへの思いとギムナジウムの卒業試験

 その時点で、まだブンデスリーガでプレーできるレベルまできていたわけではないかもしれない。だが、フンケルは近い将来トップチームで活躍できるだけのものをアペルカンプの中に見た。他の選手にはない何かを――。だからこそ、DFBポカール1回戦のフィリンゲン、そしてブンデスリーガ開幕のブレーメン戦でメンバー入りをさせた。

 ブンデスリーガをテレビの画面越しにではなく、直に見る。そこの空気を肌で感じる。そこは、全く違う世界だった。

「めっちゃ違いましたね。ベンチの椅子の質とかも(笑)。全部レベル高いなと。もちろん、ベンチから試合を見ても、ちょっと比べられないですね。ベンチからすぐのところに、ブンデスリーガのピッチがあるというのを想像するともう凄い」

 アペルカンプは改めて思った。ここに立ちたい、と。実際にプロのプレーを身近で見て、臆する気持ちは全くなかった。むしろ気持ちは高まり続けている。

「もちろん(プロで)できるって思いはあります。何年後とかではなくて、できるだけ早く。試合には出られなかったけど、ベンチでもこのブンデスリーガの雰囲気を味わえたのは良かったです」

 早くあのピッチに立ちたいというはやる気持ちを抑え、アペルカンプは今、自分に必要なことと向き合い取り組んでいる。

 その一つが、学校をしっかりと卒業することだ。現在ギムナジウム(ドイツの中高一貫進学校)の最高学年にいるが、大学入学資格となるアビトゥーア(卒業試験)が4月にある。クラブもそれが終わるまでは、学業に集中できるようにと配慮してくれているという。

 選手のセカンドキャリアを大事に考えるブンデスリーガクラブでは、育成選手がサッカーだけではなく、学業や職業研修などにもしっかりと取り組み、生きていくための土台を築くことの大切さを伝えている。大事なことは本人も分かっている。でも、うずうずする気持ちを抑えることがもどかしくもある。

「先生はいつも『この時期はきつい』って言ってますけど、正直授業でそこまで感じてませんし、テストの結果も悪くなかった。全然やっていけている」

中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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