伝説の“爆撃機”に次ぐ13戦13ゴールの衝撃 ドイツ新時代のエース、監督絶賛の才能とは?
北アイルランド戦でハットトリックのニャブリ、ドイツをEURO出場に導く
ドイツ代表は欧州選手権(EURO)予選グループCを首位で突破した。そんな新生ドイツ代表における新しいエースが、セルジュ・ニャブリ(バイエルン・ミュンヘン)だ。
代表歴13試合で13ゴールという数字を上回るのは、“爆撃機”の異名で知られるあの伝説の点取り屋ゲルト・ミュラーしかいない。2016年11月のサンマリノ戦でデビューを飾ったニャブリは、その試合でいきなりハットトリックをマークするという衝撃をもたらした。18年ロシア・ワールドカップでグループリーグ敗退という惨敗劇に泣いたドイツ。世代交代に乗り出したヨアヒム・レーブ監督が当初、その旗頭と期待していたのはレロイ・サネ(マンチェスター・シティ)だった。だが、期待のレフティーは今年8月4日、リバプールと対戦したコミュニティ・シールドで、膝の前十字靱帯に重傷を負い、半年以上の離脱となってしまう。ドイツにとってもあまりに痛すぎるニュースだったが、そんな窮状を救ったのがニャブリだ。
センターフォワードで起用されるようになると、一気に得点数が増えてきた。縦横無尽にピッチを走り回りながら、好タイミングでボールを引き出して攻撃のリズムを作り出していく。それだけではなく、チャンスになると相手の死角を突きながら、ペナルティーエリアでボールを受けてゴールを次々に決めていくのだ。
レーブ監督は「セルジュ・ニャブリはいつでもプレーをする」と公言し、完全に主軸として絶大な信頼を受けている。同僚のヨシュア・キミッヒも「間違いなくワールドクラスの選手だ。あれだけの能力を持った選手を他に見つけるためには、相当探し回らなければならないだろうね」と大絶賛。ハットトリックを決めた19日の北アイルランド戦(6-1)後に、ニャブリは試合ボールを記念に持ち帰り、「僕のゴールでチームを助けることができて嬉しいよ」と素直に喜び、自身の代表での好パフォーマンスについて「ユース時代から慣れているポジションでプレーできているから」と明かしていた。
すべて流れるようにプレーができる。レーブ監督は試合後、「チームにとって何よりも重要な選手だ。ボールを素晴らしく扱うことができる。1トップの位置に固定してプレーするのではなく、試合の流れでいろいろなポジションを探り出せる。テクニックレベルが非常に高く、狙い通りにゴールを決めていく。アシスト能力も高い。ゴールを決めるという点だけではなく、チームのために走り、汗をかき続けてくれる。非常に価値の高い選手と言えるだろう」と手放しに誉めているが、それに値するだけのプレーを見せているのは確かだ。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。