「負けてたまるかって」 長谷部誠、ドイツで久々に直面する“競争”と湧き上がる感情
「これまで少し、自分の中でもアンタッチャブルな感じがあった」
「試合には常に出たいと思っているし。そういう悔しさはもちろんある」
ふつふつと湧いてくる熱い気持ち。負けてたまるかという純粋な意欲――。
そして改めて、ここしばらく自らが置かれていた状況を振り返る。昨シーズンはドイツメディアの採点でも、本当に多くの試合でチーム内最高得点を取るほど高く評価されていた。チームの頭脳として欠かせない存在と絶賛されていた。それだけのプレーをしてきたことも確かだ。だがそのイメージが、気がつくと飛躍していたのかもしれない。
「個人的には、これまでが上手くいきすぎたってわけじゃないですけど、少しアンタッチャブルな感じが自分の中で、チームの中であった」
そうした状況が少しずつ変わってきている。長谷部が欠場した2日のバイエルン戦で、チームは完全に相手を凌駕して5-1と完勝。代わりに3バックのセンターを務めたオーストリア代表DFマルティン・ヒンターエッガーは、攻守に好プレーで貢献していた。この流れを、どう捉えているのだろうか。
「久しぶりのレギュラー争い。自分の中で、こういう年齢でもう一回、負けてたまるかっていう気持ちが湧いてきているという部分ではすごく嬉しい気持ちもある。年齢を重ねたらチームのために、とかね、そういう気持ちが強くなるのは自然の流れなんですけど。そのなかで、まだまだ負けてらんないなって気持ちがあるので。自分の中で、それは新鮮な感じだなと思っています」
ポジション争いが目に見えた形で動き出し、その中で戦える自分を誇らしく、喜ばしく思う。選手として、求めているのは安息ではなく、常に全力で取り組める環境なのだろう。だから代表中断期にコンディションを取り戻し、来るべき戦いに備えていく。
「またフレッシュな自分になんなきゃいけないと思う。それは自分の体の感覚として。そこをまずは意識して、冬休みまでとりあえず突き抜けたいですね」
自然体で、優しい笑顔。でも目に宿っていた力強い光が、新たな戦いに立ち向かう決意の表れを感じさせた。心身ともにコンディションが整った35歳の長谷部は、フランクフルトにまだまだ必要なのだ。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。