「僕を信じてくれる人がいた」 宮市亮、苦難を経て達した境地「スピードも上がっている」
選手生命の危機を乗り越えて今季ザンクト・パウリで躍動、ルフカイ監督も絶賛
ドイツ2部ザンクト・パウリのヨス・ルフカイ監督は、今季34人もの選手を抱えている。ポジション争いは熾烈だ。パフォーマンスが少しでも下がると、容赦なく別の選手が起用されていく。
そんななか、ほぼ全試合でフル出場を果たしているのが元日本代表MF宮市亮だ。現地時間10月30日に行われたフランクフルトとのDFBカップ2回戦では、2週間前の打撲の影響もあり出場は見送られたが、指揮官の信頼は絶大なのだ。
ルフカイはドイツ紙「ビルト」の取材に、「リョウのコンディションの状態は良い。この2カ月間、それを証明している。非常に優れた選手であり、いつでも全力でプレーしてくれる。前に出ていくプレーに関しては、スペシャルなクオリティーを誇っているんだ。攻撃でも守備でもチームを助けてくれる」と絶賛している。
そんな宮市がフランクフルト戦後にミックスゾーンで、こちらの質問にとても丁寧に答えてくれた。
「サッカー選手になって初めて充実しているかなというくらい、試合にもコンスタントに出られていますし、本当に怪我なくこのまま1年やっていきたいなと思いますね」
宮市はそう噛みしめるように語る。
壮大なキャリアを期待されていた。だが、何度も大きな負傷が立ちふさがる。「現役続行は無理かもしれない」と言われたこともあった。なぜ自分だけが、こんな苦しい思いをするのか。そんな思いに苛まれたことだってあるだろう。
だが、宮市はいつだって前を向き、また立ち上がってきた。これまでの経験から多くのことを学んだ。自分を知り、サッカーを知り、そして世界を知り、絆の素晴らしさ、ありがたさを誰よりも感じてきた。胸に去来するのは、苦しい時期を助けてくれた周りの人への感謝の思い――。
「やっぱり、もちろんサッカー選手ですから、(怪我は)つきもの。なんだろう、このままじゃ終われないというのもありました。怪我をして、でも僕以外の、ファンの人もそうでしたし、家族もそうでしたし、こんな歩けない状態になってもまだ信じてくれる人がいた。まだ『お前はできるぞ』ということを言ってくれる人がたくさんいたんで。いろんな要素がありますけど、そういういろんな要素を含めて、今こうしてもう一回ピッチに立って試合に出られているので、そういう人たちのためにもしっかりプレーして、恩返しじゃないですけど、僕ができることをしっかりやっていきたいですね」
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。