敵将ジェラードも「感心した」と賛辞 21歳FW食野、日本代表より「マンC復帰」の思惑

食野は日本代表選出よりも自身の結果にこだわる【写真:Yukihito Taguchi】
食野は日本代表選出よりも自身の結果にこだわる【写真:Yukihito Taguchi】

欧州とは真逆の価値観、日本では代表定着がスター選手への絶対条件

 この食野の発言は、英国で長年にわたって日本人選手を取材している筆者にとっては新鮮な驚きだった。

 というのも、これまではどうしても日本人選手の場合、代表選手になるのが大目標であり、スター選手になるための絶対条件という意識が強いという印象があったからだ。

 もちろん、1998年に日本代表がフランス・ワールドカップ(W杯)に初出場したからこそ、日本におけるサッカー人気はそれまでとは比較にならないほど大きく、広く、高く、スケールアップした。だから人気の中心に代表チームがあるのは仕方がないし、当然のようにここにサッカーファンの注目も集まる。

 一方、本場ヨーロッパに比べて、クラブのサッカーに対する関心は弱い。というか、確実に規模が小さくなるような気がする。代表戦は見るが、クラブの試合を毎週追うファンは確実に少ない。

 ヨーロッパの中でも特にイングランドのプレミアリーグとなれば、ファンは代表戦よりさらに熱い視線を注いで、サポートするクラブの試合に一喜一憂する。

 基本的に選手も、代表よりクラブを優先する。プロとしての実質的な評価も、クラブでの活躍で決まる。もちろん、W杯優勝はサッカー選手としての究極的な夢だが、実際の話、代表は名誉職のようなものだ。

 ビッグクラブの所属選手となれば、その傾向はなおさら強くなる。頑張るのは代表戦で良いところを見せて、さらにレベルの高いクラブに移籍したい選手だろう。

 それに、もしも代表戦のパフォーマンスのほうがクラブの試合よりも良いという判断をされたら、どんなに人気が絶大でも放出されてしまう危険も出てくる。

 2003年にマンチェスター・ユナイテッドからレアル・マドリードに移籍したデイビッド・ベッカムなどはその良い例だ。もちろんベッカムには他にも、2002年日韓W杯で世界的なサッカー・アイドルとなり、当時スパイスガールズのメンバーで人気絶頂だったヴィクトリア夫人との結婚で、華やかになるばかりだった私生活にも問題はあった。しかし、代表主将に抜擢されたことで、ベッカムのパフォーマンスが代表を優先しているとアレックス・ファーガソン監督に疑われたことが、この時の移籍の根本にある。

 これは余談になるが、イングランド代表の結果が常に期待以下に終わるのも、要求が厳しく高いプレミアでの燃え尽き症候群が、その大きな要因ではないだろうか。

 それはさておき話を戻すと、日本のサッカー選手の状況はこれと真逆で、代表を中心に回っていると言っても過言ではないだろう。

森 昌利

もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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