東欧の名将がJ1札幌を躍進させる理由 選手を驚かせた「超攻撃的」の裏にある本質
「J1では負けっぱなし」だったチームが勝つことの意味
「ミシャのサッカーは楽しい」
こうした言葉も、この1年半で選手の口から何度も聞いてきた。だが、トレーニングメニューのところについて、ブラジル、日本、韓国でプレーをしてきたブラジル人FWアンデルソン・ロペスに聞くと「過去に自分がやってきたものと、特に大きく違う部分はない」という。ならば、サッカーを生業とする者たちに「楽しい」と思わせる要因はいったいなんなのか。ルヴァン杯準決勝を終えた直後に宮澤に問うと、背番号10からはシンプルに次のように返ってきたのである。
「勝てるからです」
勝てるから――。数多くのJクラブがあり、年月を重ねるごとに各クラブの立ち位置はより明確になりつつある。常に優勝を求められるクラブもあれば、J1残留が至上命題なクラブもある。育成を重視するクラブもあれば、まずは存続が目標というクラブもあるかもしれない。
しかしながら、改めて選手個々の心情を推測するならば、やはりみんな「勝ちたい」のだろう。華麗にパスがつながったり、巧みなテクニックで相手を翻弄することで得られる楽しさもあるだろう。それでもやはりサッカー選手として、その末につかみ取る勝利を上回る快感はないのかもしれない。
宮澤は続けた。
「実際の戦績がどうかは別として、2008年に僕が札幌に入ってからは負けることのほうが多かったように思います。特にJ1では負けっぱなしでした。でも、今は勝てるんです。なにしろ今回も、あのガンバ大阪に勝って決勝に行くんですよ。過去に屈辱的な大敗をしたこともあるビッグクラブに、です。このチームで頑張り続けてきて良かったと心から思っていますし、ミシャにも感謝しています」
プロとして勝利を手にすることの重要性は、ミシャ本人も強く感じている。本人をして「私はプロサッカー選手になって、最初の勝利給などを使って実家に水道を引いた。それまでは水が必要になるとその都度、20メートルほど離れた場所にある井戸に汲みに行った。それが結構、大変でね」と自身の過去を振り返る。価値観は人それぞれなれど、精神的な充足感以外にも、勝ってこそ得られるものはプロの世界にはたくさんある。