東欧の名将がJ1札幌を躍進させる理由 選手を驚かせた「超攻撃的」の裏にある本質
ペトロヴィッチ監督就任2年目、26日のルヴァン杯決勝に進出 クラブ史上初タイトルへあと1勝
2017年12月、契約および就任会見のために札幌市内へと足を踏み入れたミシャことミハイロ・ペトロヴィッチ監督は、降り積もるたくさんの雪を見て「まるでセルビアに帰ってきたかのようだ」と、新天地となる北の大地を自身の祖国と重ねた。そして札幌市中心部に大きな地下街があることを知り、「まさか地下があんなに賑わっているとは思わなかった」とも驚いた。懐かしさと新鮮さ――ミシャと札幌市とのファーストコンタクトは、そういったものだった。
2006年の来日以来、ミシャは独自の攻撃戦術でサンフレッチェ広島、浦和レッズをJ1上位へと押し上げてきた。GKを含めて後方から丁寧にビルドアップをするプレースタイルが特徴的で色濃い。17年シーズンに「堅守速攻」で11位となり、なんとかJ1に生き残った札幌がドラスティックにプレースタイルを変えることが予想された。そんな予感が渦巻くなかで、ミシャと選手とが初対面してのミーティングは予想外の言葉から始まる。
小野伸二(現・FC琉球)が驚いていたのを思い出す。
「戦術の話をするものだとばかり思っていた。でも、一番最初に強く言われたのが『人に感謝しなさい』というもの。他の選手も驚いたと思う」
ミシャが話したのは、このような言葉だったという。
「君たちがこうしてここでサッカーに専念できるのは、それを支えてくれている人がいるから。練習場のグランドを整えてくれている人、用具を揃えてくれている人。その他、様々な人に感謝することを忘れてはいけない」
選手は皆、一様に予想外だったようだ。そして、さらに予想を上回る言葉が続く。
「君たちはタイトルを獲れる。このチームがクラブの新たな歴史を刻んでいくのだ」
プレーヤーとしての原点回帰となり得る言葉から始まったミーティングは、大きな衝撃を選手に与えた。17年シーズンに16年ぶりとなるJ1残留を果たしたばかりのチームが、一転、タイトルを目指すことになったのだ。
地元・北海道出身、札幌一筋12年目の“バンディエラ”宮澤裕樹はこのように振り返る。
「正直、最初はミシャの言葉にリアリティーを感じることはできなかった。そりゃそうですよね。僕は札幌で二度も降格を経験し、ほとんどの時間をJ2で過ごしてきたわけで。でも、練習や試合を重ねていくうちに『あながち、不可能ではないかもな……』と思えるようになっていった」
果たして、それから1年半の歳月が経ち、札幌はJリーグYBCルヴァンカップのファイナリストとなった。かつてはJ1とJ2とを行き来する「エレベータークラブ」とも揶揄された札幌が、あと一歩で本当にタイトルを手にするところまで登ってきた。この大躍進ぶりは「見事」の一言に尽きる。言うまでもなく選手の頑張りは素晴らしいが、それを促した指揮官のマンパワーも驚異的だ。