アジア制覇を狙う「浦和のジレンマ」 世界に類を見ないJ1とACLの“二兎を追う”過酷さ
2年ぶりのアジア制覇へACL準決勝を戦う一方、J1リーグでは低迷
AFCチャンピオンズリーグ(ACL)準決勝で広州恒大とのホーム第1戦を2-0で制し、ミックスゾーンで報道陣に囲まれた槙野智章は、トホホと泣きを入れる表情を作りながら言った。
「決勝に行ったら、残留させてくれないかなあ……」
もちろん、サービス精神旺盛な槙野ならではのジョークで、実際には誰より自力でJ1残留を決めようという気概に満ちているに違いない。
だが反面、JリーグもACLでのJクラブの躍進を望むなら、日本を代表して戦うチームのサポートを真剣に考え直さなければならない時期に来ていると思う。
浦和は一昨年ACLを制したが、翌年の出場権を確保できなかった。AFC(アジアサッカー連盟)が前回優勝チームの参加資格を撤廃し、浦和も国内で出場権を確保できなかったからだ(2017年のJ1リーグ7位、天皇杯ベスト16敗退)。
しかし欧州の例を見ても、ほぼ上位を占めるのは常連チームである。2017-18シーズンのUEFAチャンピオンズリーグ(CL)決勝で敗れたリバプールが18-19シーズンで雪辱を遂げたように、やはり経験値は重要な武器になる。
一方で国内に目を向けると、ACL出場組のJリーグでのハンデは計り知れない。欧州の強豪クラブは当たり前のようにこなしているとの見方もあるが、彼我の条件の乖離は明白だ。
例えば、欧州なら北のロンドンから南のマドリードまで直行便なら2時間半で移動できる。要するに日本の国内移動や近隣の韓国や中国への移動と変わらない。だがアジアの場合は、オーストラリアがAFCに加盟してきたことで一気に状況が険しくなった。東京-シドニー間は9時間半だから、ほとんど欧州へ移動するようなもので、両国間では季節も真逆になる。タイのバンコクでも6~7時間を要し、しかも日本以上の気温や湿気が大敵になる。さらに日本のシーズン真っ只中には酷暑が居座るので、疲労や故障との闘いも過酷を極める。
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加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。