「日本らしさ」を超えたラグビーW杯の快進撃 サッカーは“多様化”する世界へいかに挑むか
“多様化”が進む世界、人種の共存の仕方こそが「フランスらしさ」
サッカーはまだ「日本らしさ」の段階にある。外国籍選手を起用して体格差を埋めることはできないので、この点はラグビーの真似はできない。日本人の良さを活用して勝機をつかもうというレベルである。しかし、サッカーでも強いチームの多くはすでにラグビー並みに“多様化”しているのだ。
フランスは言うに及ばず、ベルギーや多様性の老舗であるブラジル、多様化では出遅れていたドイツ、イングランドでも様々な出自の選手が取り込まれるようになった。これらの国々は、いったん古いアイデンティティーの解体を余儀なくされている。
例えば、「フランスらしさ」とは何か。もともと三代遡れば外国人という国で、フランス人らしさを求めるのはナンセンスだった。オリジナルのフランス人と言われるゴール人の気質を云々したところで全く意味はない。フランスという国家で暮らす、多様な人種の共存の仕方こそが「フランスらしさ」だ。2010年南アフリカW杯での移民系選手の反乱と分裂という危機を経て、ディディエ・デシャン監督が世界一を獲るに至る過程で得た教訓は、「とにかくまとまれ。それ以外に道はない」だった。
ゲルマン魂もジョンブル魂も関係がない。「代表チームは○○人」であることに意味を見出す時代ではなく、多様な人々がいかに共存し結束するかの競争になっているわけだ。その点で「フランスらしさ」は、「ドイツらしさ」であり、「イングランドらしさ」でもある。
ラグビーの「日本らしさ」も、「日本人らしさ」とイコールではない。そのせいか「日本人の誇り」という称賛にはやや違和感があって、せいぜい「日本の誇り」か、単純に選手ないしチームが素晴らしいということでいいのではないか。ラグビー日本代表はサッカーのフランス代表やベルギー代表と同じ場に立っていて、選手がすべて外国籍でもファンはおそらく日本代表を応援するはずだ。
サッカー日本代表は、まだその場にいない。いずれそうなるかもしれないが、現在はまだ(まあ幻想なのだが)単一民族・日本人のチームだ。日本人らしいサッカーをやるほかない。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。