長谷部誠、ドイツで続く自問自答の日々 「チームが苦しい時、自分がどれだけやれるか」
長谷部がアーセナル相手にも見せた、攻守両面の“洗練された動き”
長谷部はこの日も、緩急をつけた長短のパスで攻撃を組み立てていた。相手が守ろうとしている先を見ていて、ポジションを飛ばしたパスをどんどん展開。そして状況によって無理はせずに、近くの味方に当ててからもらい直すなど、キープと素早い攻撃とのスイッチを切り替えていた。
守備でもアーセナルのスピードある攻撃陣に対して、抜群のタイミングとポジショニングで相手に突破するためのコースを与えない。前半30分には、後ろからのパスを受けたアーセナルのFWピエール=エメリク・オーバメヤンが素早いターンから一気にドリブルへ入ろうとしたが、その動きを完全に読み切った長谷部はスッと身体を入れてボールを奪い取ってしまった。その一連の動きは、非常に洗練されている。
それでも、それがチームの勝利に結びつかないとなれば、満足したりはしない。
「こういう時、チームが苦しい時に自分がどれだけやれるのか。組み立てもそうだし、失点しないっていうところができるかっていうのは、後ろの選手としては、もう少しやっていかないとなっていうふうには思います」
チームが3失点を喫したことも、無得点で終わったことも、自分がもう少し何かできたことがあったのではないかと長谷部は考える。そうした個人としての取り組みも、フランクフルトの選手それぞれがしていかなければならないのは間違いない。
一方でチームとしての構造に関してはどうだろう。試合後にアディ・ヒュッター監督は「(失点を)DFのせいにするのは簡単すぎる。あまりに前へ急ぎすぎてしまったのかもしれない」と振り返り、3失点を喫した守備の問題を、チーム全体の攻守のバランスが上手くとれていなかった点に見ている。
確かにこのアーセナル戦では、ボールを奪われた後のポジショニングとアプローチが中途半端になり、ボールを奪い返すどころか、相手に危険なカウンターを許す場面も少なくなかった。ボール奪取能力が高く、プレスの担い手でもあるMFセバスティアン・ローデが負傷で離脱しているなか、どのように守備組織を構築するのかが重要なポイントとなっている。
新加入のアンドレ・シルバとバス・ドストの両FWがチームになじむのには時間が必要だが、守備の修正は早急に必要なところだろう。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。