“夢”を追うフランクフルトが越えるべき壁 長谷部も求める「ワンランク上の競争」
今季も挑むブンデスリーガとELの戦い、生かさなければいけない「昨季の教訓」
フランクフルトがUEFAヨーロッパリーグ(EL)プレーオフでストラスブールを下し、本戦出場を決めたことは選手に大きな興奮をもたらした。昨シーズンのようにELの頂上を目指して駆け上がっていきたい――。その思いはおそらく、ヨーロッパにある数多のクラブのなかで一番強いのではないだろうか。だから、登り始める前にその夢を諦めることになってしまっていたら、クラブやファンにとって大きな損失になったことだろう。
大事な試合でノルマを達成すると、そこには安堵感も生まれる。緊張感の高まりが解かれ、ホッと一息をつく。そこからまた気持ちを入れ替えて、次の試合に臨むわけだが、試合が連続で続くと、このメンタルコントロールが難しくなる。デュッセルドルフをホームに迎えた1日のゲームでは、前半気持ちのギアがなかなか上がらない。この試合にフル出場した元日本代表MF長谷部誠は試合後、チームに充満していたそんな空気感を指摘していた。
「シーズン始まって1カ月ちょっとで、もう公式戦10試合くらいやってるんで、今日も前半なんかは身体の疲れもそうですけど、頭の疲れも感じた。(代表中断期の)2週間を使って、またしっかりとリフレッシュしなければならないと思います」
頭によぎるのは昨季終盤の失速だ。リーグ戦でUEFAチャンピオンズリーグ(CL)出場権獲得、ELでは決勝に進出して優勝と二つの大きな目標を追い続けていた。どちらも狙えるチャンスがあるチームは数えるほどで、だからクラブは、選手は、ファンは本気で両方を獲ろうと懸命に戦った。最終的に力尽きてしまったものの、その姿は美しかった。ファンは選手を称え、だからこそ今季その経験を生かすことが求められている。
「今シーズンはもちろん、選手層もある程度は厚くしている。ただその部分で、今出ている選手と代わりに出た選手の差はちょっとまだ感じるし、そこをもっともっと上げていかないとチームとしての総合力は上がっていかないと思う。去年の教訓は今シーズンに生かしていかないと、と思います」
ターンオーバーで主力選手を休ませながらシーズンを戦うべきだという声もある。実際に全試合をフルで戦い抜くことは厳しい。だが、頭ではそうだと分かっていても、どの試合も勝ち点や突破がかかってくるとなれば、指揮官はある程度の計算ができなければ、選手の入れ替えを決断しにくくなってしまう。長谷部も、その点を認めている。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。