長谷部誠の“終わらぬ冒険” フランクフルトを2年連続EL本戦に導いた日本人リーダーの姿
【ドイツ発コラム】前半に退場者を出すも…ストラスブールとのELプレーオフに勝利 “主将”としてチームを牽引
ここで負けるわけにはいかなかった。
UEFAチャンピオンズリーグ(CL)常連のクラブにとっては、UEFAヨーロッパリーグ(EL)はそこまで興味のない大会かもしれない。だが、フランクフルトにとっては違う。昨シーズン、すべてのホームゲームで4万7000人の超満員になった。アウェーにも1万人を超すサポーターが詰めかけた。欧州を回る冒険はクラブとファンに極上の刺激と喜びをもたらし、だからこそ、またあの舞台へという思いがどこよりも強い。
日本代表GK川島永嗣が所属するストラスブール(フランス)との敵地でのプレーオフ第1戦を0-1で落としていたフランクフルトだったが、ホームでは絶対的な自信がある。現地時間29日に行われた第2戦、試合開始から矢継ぎ早にプレスを仕掛け、相手を自陣に釘付けにしてしまう。ただ、ボールこそ支配しているが、なかなかゴールチャンスには結びつかない。ファンの声援をバックにチームとして勢いのある動きを見せるが、それが逆に縦ばかりの攻撃になってしまう。
そんな流れを変えたのが、元日本代表MF長谷部誠だった。この日、負傷欠場したDFダビド・アブラハムに代わりキャプテンマークを巻いた長谷部は、いつもどおりセンターバックの真ん中でフル出場。この試合では普段以上にドリブルで持ち上がり、攻撃の起点となるパスを配球するシーンが多かった。
先制ゴールも長谷部の機転から生まれた。前半26分、中盤でボールを持つとパスを警戒する相手の裏を取り、するするとドリブルで持ち上がる。3人をかわして左サイドでフリーのFWアンテ・レビッチへ展開すると、そこからのクロスが相手のオウンゴールへとつながった。
順調な展開となったフランクフルトだが、前半終了間際に思わぬアクシデントに襲われる。ゴール前に抜け出したレビッチが、シュート時に相手GKと交錯。確かに足裏が当たったが、そこまでの勢いはなかったのではないかと周りのドイツ人記者も話していたが、主審の判定は一発レッド。スタジアムのファンは怒りを爆発させ、あらん限りのブーイングをピッチに飛ばす。選手も興奮し、主審に抗議しようと殺到する。そこにスッと入り、選手を落ち着かせようとし続けていたのが長谷部だった。
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中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。