“カットイン”シュートは「ゴールへの花道」 名手が彩ってきた痛快なワンマンショー
右サイドからのカットインはロッベンの代名詞 左45度は“デル・ピエロ”ゾーン
アリエン・ロッベンが7月、現役引退を発表した。フローニンゲンでデビューし、PSV、チェルシー、レアル・マドリード、バイエルン・ミュンヘンで活躍。PSV以降のすべてのクラブでタイトルを獲り、バイエルン時代はUEFAチャンピオンズリーグ(CL)優勝の立役者にもなった。オランダ代表でもワールドカップ準優勝(2010年)、3位(14年)と素晴らしい戦績。輝かしいキャリアは、改めて記すまでもないだろう。
ロッベンのトレードマークといえば、右サイドからカットインしての左足シュート。引退後のプランとして少年チームの指導をしたいと語ったロッベンは、「もちろん練習メニューはカットインからのシュートさ」と、周囲を笑わせたという。右サイドからドリブルでカットインする時のロッベンは、ゴールと平行というより自陣ゴール方向へ進んでいくことも多かった。そこから巻き込むような左足のスイングでニアポスト、ファーポストのどちらにも強烈なシュートを打っていた。
カットインからのシュートは、いわば「ゴールへの花道」だ。
仕掛ける、かわす、切れ込む、観衆にシュートへの期待が高まるなか、鮮やかな一撃がネットを揺らす。ワンマンショーであり、「来るぞ、来るぞ」という期待に応えた胸のすくような得点シーンだ。
カットインからのシュートはロッベンだけでなく、多くの選手が得意としている。サッカーが始まった頃からあったに違いない。有名どころでは、左45度のエリアにその名が付けられたアレッサンドロ・デル・ピエロがいる。デル・ピエロはシュートの強さよりも、放物線を描きながらGKの指先をかすめてゴールインする芸術性が印象的だった。
ティエリ・アンリも、このシュートの名手だった。アンリが少年時代を過ごしたレズリュスというパリ郊外の街には、「アンリの壁」と呼ばれる壁があった。スケートボード用のバンクなど、様々なスポーツを楽しめる施設がある公園のなか、ちょうどサッカーゴールぐらいの大きさの壁が据えられている。壁は表裏どちらも使えるように空間にポツンと立っていて、映画『2001年宇宙の旅』に出てくる謎の壁面モノリスのようだった。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。