「そこで倒れていればいいのに」それでも立ち上がる男 トーレスが世界で愛された理由

驚異的に勝負強く、そして不器用だったストライカー
昨夏の加入以来、日本で思い描いたような日々を過ごせなかったことは否めないだろう。エースとして最後にひと花咲かせたかった思いはあったはずで、それは下部組織から育ち、思い入れのある古巣アトレチコ・マドリードで綺麗に物語を完結させるのではなく、極東でキャリアを続行するという決断に表れていた。だが、残留争いに巻き込まれるチームのなかでそれは叶わず、Jリーグ通算35試合5得点という大物助っ人としてはやや物足りない数字を残してスパイクを脱いだ。
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冒頭でも記したように、トーレスは簡単なシュートほどよく外す選手だった。それは、アトレチコで頭角を現した時も、リバプールでキャリアの全盛期を迎えていた時期でも、目にする光景だった。それでも、この元スペイン代表FWがいまだに愛され続ける存在でいるのは、自らが窮地に追い込まれている立場であればあるほど、チームが最もゴールを必要とする場面で、度肝を抜くゴールを生み出してきたからだ。
鳥栖で言えば、熾烈な残留争いのなかで迎えた昨季リーグ第33節の横浜F・マリノス戦(2-1)だろう。勝ち点3を獲得しなければ降格が濃厚になるという危機的状況のなかで、トーレスは1-1で迎えた後半33分に決勝ゴールを奪ってみせた。スペイン代表でも2008年、12年の欧州選手権(EURO)決勝でともにゴールを奪っており、母国に優勝をもたらしている。
さらに印象深いのは、トーレスは倒れるのを嫌う選手だったということだ。アタッカーであれば、ペナルティーエリア内でタックルされて転倒すれば、ほとんどの選手がPK判定を訴えるだろう。ダイブは間違った行為ではあるものの、倒されてPKを要求すること自体は自然なアピールと言える。
しかしトーレスは、よっぽどのことがない限り、倒されてもすぐに立ち上がりボールを追いかけ続けていた。そこで倒れたままでいればPKをもらえたのに――そう思うことも正直、何度もあった。それでも、彼は立ち上がる。一見不器用なようにも見えるが、それがトーレスであり、愛される要因の一つでもあったのだ。