トレンドという言葉だけでは語れない2014ブラジル大会の総括 ドイツが示した「南アフリカからの進化」と「世界で勝つために必要だったもの」
縦に加え、横への揺さぶりで最後の好機をものにする
ドイツの攻撃は“縦パス”と“サイドチェンジ”が鍵であった。アルゼンチンの守備をこじ開けるのが至難の業なのは、戦前から予想されていたことだったからだ。
安易にサイドに流れるのではなく、まずは中央突破を狙った。闇雲に攻めては簡単に相手のプレスの餌食となり、カウンターを食らうことになる。そこでドイツは中盤でパス回しの中心となるMFシュバインシュタイガー、トニー・クロース、メスト・エジルらが攻撃のリズムを変えながら、タイミングを見極めて縦パスを入れることで揺さぶりをかけた。常に同じボールタッチからのリズムでパスを出すのではなく、時にテンポアップしてパスを出し、時に溜めることで敵をずらし、それによって生じた小さいスペースにパスを送り、起点作りを意識した。
パスの受け手となるFWミロスラフ・クローゼとMFトーマス・ミュラーはダイレクトパスで突破を図ったり、スクリーンしながらうまく身体を使ってターンで抜け出したりとチャンスを作り出すが、アルゼンチンも最後のところで体を張ってしのぐ展開が続いた。
ここでポイントになったのが“縦への揺さぶり”に加え、“横の揺さぶり”だった。特に、クロースから右サイドバックのフィリップ・ラームへのサイドチェンジは何度も好機を演出した。サイドチェンジで大事なのは、サイドを代えた後のプレーだ。つまり、サイドを代えることが目的ではなく、試合状況を変える起点を作ることが目的。ラームはダイレクトでのクロス、縦のスペースへのパス、あるいはパスを受けてからスピードに乗ったドリブルで持ち上がるなど、相手を混乱に陥れるべく、次々に変化をつけた。
こうした駆け引きが、結果的にアルゼンチンを少しずつ追い込んでいく。ドイツは延長後半8分、左サイドをドリブルで運ぶMFシュールレがゴール前でフリーになっていたMFマリオ・ゲッツェにふわりとしたパスを通すと、ゲッツェが完璧な胸トラップからのボレーシュートを決めた。初めてエリア内で相手をフリーにしてしまったアルゼンチンとそのチャンスを確実に生かしたドイツという図式になるが、そこにはドイツが1試合をかけて作り出した流れと戦略が確かに存在した。アルゼンチンも類い稀なる個人技をベースに何度か得点チャンスを作っていたが、最後のところで決めきれなかった。