トーレスを輝かせた「魔法のアシスト」 盟友ジェラードと戦ったキャリア最高の3年半

ジェラードとのコンビネーションは圧巻だった【写真:Getty Images】
ジェラードとのコンビネーションは圧巻だった【写真:Getty Images】

圧巻だったボルトン戦での電光石火のゴール

 英国のリバプールを熱狂させたスペイン人を現地で間近で見た日本人としては、トーレスが自分の母国で引退を発表するということに不思議な因縁も感じて、“本当にあの頃はスペシャルだった”と、リバプール時代の若きトーレスの姿がくっきりと脳裏に蘇った。

 特に、最盛期だったジェラードとのコンビネーションは圧巻だった。

 この2人さえいれば、どんな劣勢からでもゴールを奪える――そんな印象が強い。個人的な意見で申し訳ないが、その象徴的なゴールは、移籍初年度、2007-08シーズンの12月2日にホームのアンフィールドで行われたプレミアリーグのボルトン戦(4-0)、前半45分に当時23歳のトーレスが記録した2点目だと思う。

 相手に攻め込まれて、奪い返したボールをジェラードが足もとに収めたのは自陣中央の深いセンターバックの位置。そこから自慢の右足を振り抜いて、矢のようなロングボールを前方に吹っ飛ばす。

 その60メートル先にいたのが、トップスピードに乗ったトーレスだった。2人の相手DFの間をあっという間に割り、そのまま置き去りにすると、右サイドのタイトアングルから飛び出したGKの頭をふんわりと越えるループシュート。相手のボルトンイレブンは狐につままれたような表情になるしかない、まさに電光石火のゴールだった。

 このように、テクニカルなスペインからやって来たトーレスは、フィジカル的で速いプレミアのサッカーの中に混合しても、そこからさらなる力強さとスピードで浮かび上がる身体能力があった。一見するとハンサムな優男に見えたが、そんな外見でプレミアの世界一剛健なセンターバック(CB)陣を吹っ飛ばしまくったのだ。そのフィジカルの強さは、当時のプレミア、いや欧州、ということは世界でも屈指と言える強さを誇ったマンチェスター・ユナイテッドのCBコンビ、リオ・ファーディナンドとネマニャ・ヴィディッチさえ手玉に取るほどだった。

 ユナイテッド戦でトーレスが鉄壁を誇ったファーディナンド、ヴィディッチのコンビから奪ったゴールは、当時のプレミアで最強を誇り、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)も制して栄光を欲しいままにしていた最大のライバルに対し、苦々しい思いを噛み潰すしかなかったリバプール・ファンの溜飲を大いに下げた。

森 昌利

もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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