「マジック・トライアングル」解体のフランクフルト 長谷部の“特別な存在感”と懸念点
昨季ブンデスとELで躍進も…攻撃の核だったヨビッチとアレが今夏移籍
昨シーズンのフランクフルトはFWトリオのルカ・ヨビッチ(→レアル・マドリード)、アンテ・レビッチ、セバスティアン・アレ(→ウェストハム)がそれぞれ絶好調で、チーム全得点のじつに7割以上の得点に絡んでいた。個々の突破力と得点力に加えてコンビネーションも素晴らしく、UEFAヨーロッパリーグ(EL)準決勝進出、そしてブンデスリーガでの7位は彼らの活躍なしには成し遂げられなかっただろう。サポーターもそんな勇者に惜しみない拍手を送っていた。
だが“マジック・トライアングル”は、わずかの間に終わりの時を迎えてしまった。ヨビッチとアレの2人が、それぞれレアルとウェストハムに移籍し、チームを去った。さらにレビッチの去就も、移籍市場が閉まるまではどうなるかは分からない。クラブはセルビアの新鋭FWデヤン・ヨベリッチを獲得し、ベルギーから戻った日本代表MF鎌田大地は確実な成長の跡を見せてレギュラー候補として期待されてはいる。だが昨季の爆発力と比較すると、やはりまだ戦力的な物足りなさはある。
一方で、守備陣は盤石と考えられていた。レンタル移籍から昨季チームの主軸となっていたDFマルティン・ヒンターエッガー、MFセバスティアン・ローデ、そしてGKケビン・トラップの3人をそれぞれアウクスブルク、ドルトムント、パリ・サンジェルマンから完全移籍で獲得することに成功。さらにレバークーゼンからは攻守にダイナミックなMFドミニク・コールを補強することにも成功した。守備は計算できるだけに、攻撃をどう整理するか。そこが今季に向けた最大の課題であり、ポイントになると見られていた。
EL予選では3回戦第1戦のファドゥーツ戦(5-0)までは危なげなく勝ち続けていたものの、DFBポカール1回戦では3部のマンハイム相手に大苦戦。盤石の試合展開とは程遠く、まさかの3失点。終盤にレビッチがハットトリックの活躍を見せ最終的には5-3で勝利したとはいえ、普段は選手をかばう監督のアディ・ヒュッターも思わず「何が足らなかった? 全部だ!」と嘆くほどのドタバタぶりだった。
そんななか、元日本代表MF長谷部誠はベテランらしく、大崩れすることなくクオリティーの高いプレーを見せていた。EL予選からの疲れもあったのだろうが、マンハイム相手に3失点した後でもどこかピリッとしない守備陣に大きな声で指示を飛ばし、再び落ち着きを取り戻させた。その存在感はやはり特別だ。攻撃面でも後半途中に手詰まり状態になると最終ラインから素早いパスを前線に配球し、アクセントを加えていた。その戦術眼は今年もチームに欠かせない。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。