南野&奥川のザルツブルク、レアル戦で得た“CL基準” 「夢」の本戦へ向けた課題とは?
テストマッチとは思えない熱気のなかでレアルと激突
3万188人――。日本代表MF南野拓実とMF奥川雅也が所属するザルツブルクのスタジアムが、ここまでの観客で埋まったことがあっただろうか。昨シーズンのオーストリアブンデスリーガでは平均入場者数が9687人。2017-18シーズンのUEFAヨーロッパリーグ(EL)決勝トーナメント準々決勝、準決勝の時が2万9500人ほどだったので、その時以上の数字ということになる。
現地時間7日に行われた一戦、相手がレアル・マドリードだからと、物見遊山のファンばかりだったわけではない。それは試合前の熱気からも感じられた。とてもテストマッチのそれではなかった。思わず7月下旬にドイツのミュンヘンで行われたアウディカップでの光景と見比べてしまった。
“決勝戦”でバイエルンはGKマヌエル・ノイアー、DFニクラス・ジューレを除く9ポジションをローテーション。もちろん時期的なものはあるだろう。そして強豪と顔を合わせるのが、ある意味当たり前の彼らにとってはあくまでも調整としてのテストマッチであることは理解できる。ただセカンドチーム所属の選手があまりに多く、観客が戸惑っていたのも事実だ。
ザルツブルクにとって、レアル戦は思い入れが違う。いつでもこうした相手と試合ができるわけではない。加えて今季は、クラブ創立以来初となるUEFAチャンピオンズリーグ(CL)本戦出場がやっと叶う。自分たちの立ち位置はどこにあるのか。2015-16シーズンからCLを3連覇した王者との一戦は、1カ月後に迫ったグループステージに向けて多くの経験を得ることができるまたとない機会なのだ。
当然選手の気合も違う。この日、後半45分間に出場した奥川は「自然に興奮じゃないですけど、モチベーションが上がるというのが今日の率直な気持ち」と、試合後に心境を明かしてくれた。現在地を探るうえでも真っ向勝負を挑んでいく。チームとして自分たちの持ち味である積極的な前線からの守備と、素早い縦への攻撃で真っ向からぶつかろうとした。
狙い通りにボールを奪取し、相手を崩したシーンもあったが、「もうちょっと上手くペース配分というか、上手いことボールを持った時に冷静になれていれば良かったかなと思いました。ちょっとプレスに固執しすぎたかなと。行きすぎたみたいな」と分析したように、全体的に気がはやりすぎてプレスが空回りしたり、スピードを調整できずにパスミスが続いた時間帯もあった。このあたりはCL本戦に向けての課題になる。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。