日本の夏と“相性の悪い”サッカー 水泳シーズンに高校日本一が短期決戦で争われる矛盾
時代の流れを感じた欧州強豪との親善試合と変わらない光景
日産スタジアムに6万人を超える観衆を集めて行われた川崎フロンターレ対チェルシーの一戦は、改めて時代の流れを感じさせる試合だった。
かつて欧州の強豪チームは、日本代表強化のために招待された。例えば1970年にはサウサンプトンの胸を借り、2戦目には前半で3点をリードしながら追いつかれ、それでも善戦を称えられた。1991年キリンカップでは、最終戦でトットナムを下して大会初優勝を飾り、歓喜の涙を流す北澤豪の姿が印象的だった。ただし、いずれも来日は6月上旬。相手は長いシーズンを戦い終えたばかりだった。
だがその後、サウサンプトンにもトットナムにも在籍する日本人選手が現れ、今回の川崎の1-0勝利も比較的淡々と受け止められていた。
鬼木達監督は「初めから勝つことを求めて来た」ので目標達成は評価しながらも、「正直な感想としては(相手が)強かった」と振り返っている。一方、敗れたフランク・ランパード監督も「3日前に来日し、湿度の高いなかで全体的に良いパフォーマンスだった」と語った。
半世紀の間には欧州の情報もたっぷりと日本に流れ込み、もはやファンも両チームの置かれた状況を考慮したうえで楽しむようになった。
しかしこれだけ時が流れても、一向に変わらないのが高校の部活のスケジュールだ。さすがにインターハイも分散開催になり、沖縄県開催となる今年のサッカーは25日に開幕し、1週間後に決勝戦を迎える。
そもそもサッカーを筆頭に、夏季総合スポーツ大会に組み込むには無理のある種目が判明してきた。五輪や世界陸上でマラソンは早朝スタートにするなど苦肉の策を採っているが、所詮世界一を決める理想のコンディションにほど遠いことは自明の理。今年からは日本陸上選手権も、男女の1万メートルだけを分離し、前倒しの日程でナイトレースとした。
現在韓国では世界水泳が行われているが、さすがにJFA(日本サッカー協会)も、水泳のハイシーズンの裏で高校日本一を決める大会が短期集中開催されていることの矛盾に目を向けるべきである。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。