佐藤寿人が打ち立てたもうひとつの金字塔 12年連続二桁得点が途切れかけた“あの年”
最もうれしいゴール
「ヒサ、後半開始から行くぞ」
ペトロヴィッチ監督からのGOサインだ。ピッチに出る前に、靴ひもを結び直す。緊迫感がにじむ。エースの復活を信じる紫のサポーターに向かって、彼は歩いた。
結果から書けば、この試合の後半アディショナルタイムに、勝利を決めるゴールをたたき込む。山崎のパスを左で受け、角度のないところから放ったシュートは「移籍して最もうれしいゴール」と自身が語るほどのドラマ性を秘めていた。
このゴールは、彼の2010年シーズンの10点目。以降、寿人が得点を挙げられなかったことを鑑みても、この劇的な復活ゴールがなけれぱ、彼が打ち立て続ける金字塔の一つである12年連続二桁得点もなかったのだ。
10年9月10日、万博競技場で閃光(せんこう)のような煌めきを見せたエースの物語は、李忠成の運命を変え、自身の栄光の道をも切り開いた。もしあの時、寿人が痛みに耐えかねてすぐに交代したとしたら、果たして運命はこれほどのうねりを見せただろうか。
その答えは、神のみぞ知る。そして、別に知る必要はない。
あの日、そこに傷だらけのヒーローがいた。それを目撃できたことが、僕の大切な宝物なのだ。
profile
佐藤寿人(さとう・ひさと)
1982年3月12日、埼玉県生まれ。2000年、双子の兄・勇人と共に市原(現・千葉)にトップ昇格。C大阪、仙台を経て05年から広島に在籍する。J1王者となった12年にはJ1得点王、Jリーグベストイレブン、Jリーグ最優秀選手賞、Jリーグフェアプレー個人賞の4冠を受賞。昨季はJリーグ史上初となる11年連続二桁得点を達成し、今季も記録を更新。11月22日のホーム湘南戦でJ1通算最多得点の157点目を決める。
【了】
中野和也●文 text by Kazuya Nakano
サッカーマガジン編集部●写真 photo by Soccer Magazine