佐藤寿人が打ち立てたもうひとつの金字塔 12年連続二桁得点が途切れかけた“あの年”
盟友に託した一本のパス
後半9分、横竹翔(現高知)が速くて鋭い縦パスを、真ん中に立つエースの足元に届ける。DFは構わず、激しく身を寄せる。負傷したとはいえ、相手は“佐藤寿人”。ピッチに立っている以上、警戒を解くはずがない。
パスを受けて反転し、裏に出るだけのキレはもはやなかった。だが、目の前にはユース年代から共に戦ってきた盟友・森﨑浩司がいる。
「頼む、浩司」
託す思いは柔らかなパスとなって、森保一から受け継いだ広島伝統の背番号「7」を背負う男の足元へと移る。そして強烈な左足のシュートが、ゴールを射抜いた。
歓喜の広島サポーターに向かって走る7番。エースも走ろうとした。だが、走れなかった。右肩の激痛は、もはや彼にそれを許さない。同点弾をたたき込み、重傷に耐えて逆転弾を演出した〝ヒーロー〟は、勝利を確信してベンチへと歩いた。