佐藤寿人が打ち立てたもうひとつの金字塔 12年連続二桁得点が途切れかけた“あの年”

 昨季11年連続リーグ二桁得点の金字塔を打ち立て、今季もその記録を伸ばした。広島の大エース・佐藤寿人にも、その記録が途絶えそうな年があった。2010シーズン。傷だらけの男はピッチに立ち続けた。そこからうねりを上げて動きだしたドラマは、2015年11月22日のホーム湘南戦で中山雅史(現JFL沼津)と並ぶJ1最多157得点という偉大なタイ記録達成へとつながった。

 

大エースの仕事

 今から綴るのは、傷だらけの“ヒーロー”の物語である。

 そのストーリーの舞台は2010年。広島はヤマザキナビスコカップ準々決勝第1戦でガンバ大阪に0-1で敗れ、準決勝進出を果たすには第2戦で勝つしかなかった。G大阪は優勝争いの常連であり、前年(09年)の天皇杯王者。一方の広島はクラブ史上初となるアジア・チャンピオンズリーグ出場と、Jリーグの並行日程に苦しみ、この年は1度も優勝争いに絡むことはなかった。だからこそ、準々決勝からの出場となるナビスコ杯に懸ける思いが強かったのだが、G大阪の強かさに初戦は敗戦。与えてはならないアウェーゴールまで失った。

「1点取り返せば、イーブンになる」

 エース・佐藤寿人は気丈にそう語った。だが、G大阪に対しての広島勝利は01年セカンドステージまでさかのぼらなければならない。カップ戦では05年に勝利しているが、この試合はG大阪の1次リーグ突破もほぼ決まっていたため、参考にはならない。相性的にも実力的にも、G大阪優位は動かない。

 そんなネガティブな要素を全て吹き飛ばす男のことを、人は“ヒーロー”と呼ぶのかもしれない。

 彼の最初の仕事は前半16分。西川周作(現浦和)の見事な縦パスに飛び出し、ファウルを誘った。加地亮(現岡山)は、得点機会の阻止によって退場し、ピッチを後にした。

 次の仕事は、もちろんゴールだ。同26分、ミキッチのクロスを高萩洋次郎(現ソウルFC)がヘッドで押し出すようにパスを出す。一陣の風となって裏をとった広島の11番が体を投げ出し、170センチの小さな体をめいっぱい伸ばして、左足の足先をボールに突き刺した。トータルスコア1-1。エースは、前半のうちに二つの大きな仕事を成し遂げた。

 

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