VAR導入後の世界は幸せか? “SF的”な視点で「サッカーの未来」を大胆予想
VARの最大の問題点は「判定に時間がかかること」 近い将来にAIの出番!?
体にチップを入れてコンピュータとつなぐ実験が行われているそうだ。SF的な人造人間を連想してしまうが、世界はいずれ本当にそうなるのかもしれない。
サッカー界において、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)導入の流れは当分止まらないだろう。コパ・アメリカ(南米選手権)や女子ワールドカップ、ブンデスリーガなどすでに導入されているリーグもある。そこで今回は、“SF的”な視点でVAR後のサッカー界を考えてみた。
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現在導入されているVARの最大の問題点は、判定に時間がかかりすぎることだ。主審が映像を確認する場合はもちろん、しなくても、ゴール後には映像確認が行われている。長くて1分程度なのだが、その間に選手は手放しで喜ぶこともできず、観客も一度喜んでから「で、どうなの?」という反応になってしまう。ゴール直後の歓喜や興奮に思いきり水を差していて、無粋なことこのうえない。映像確認と判定は長くても15秒、できれば2秒くらいで終えてほしいものだ。
2秒だと、もう人間には無理である。映像確認はAI(人工知能)の出番だ。AIなら瞬時にゴールか否かを判定してくれるだろう。これでゴール後のなんとも言えない白けた雰囲気は回避できる。
だが、ここで新たな疑問が生じてくる。AIがこんなに正確で判定も速いなら、審判は人がしなくてもいいんじゃないか?
判定精度と速度に関して、人間はAIに太刀打ちできない。やがてフィールドから審判が消えた。フィールドに審判員がいなくなった代わりに、数機の小型ドローンが空中に漂うようになる。ドローンからの映像と従来のカメラ映像を加え、AIがすべての判定を下す。判定結果は空中のドローンが芝生の上に投影する。PKの時は、ペナルティーエリア内に「PK」と客席からも見える大きな文字が浮かぶ。FKの時は直接か間接か、どちらのチームが再開するのか、文字と矢印で示される。FKの壁がどこまで下がらなければいけないかも一目瞭然。選手たちは文句があっても言う相手がいないので、試合は粛々と進行する――と思われた。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。