欧州王者リバプール、崩壊から再生への「3年7カ月」 闘将クロップが変えたものとは?
クロップとリバプールの相性は「パーフェクト・マッチ」
「戦略は勝つために不可欠だが、試合の勝敗を分ける違いはエモーションが生み出す」
これはクロップが語る勝利の哲学だが、これが今のリバプールにはしっかりと染み込んでいる。だからこそ、プレミアリーグでシティと抜きつ抜かれつのタイトルレースを戦い、負けられない試合で連勝を重ね、欧州の強豪を次々と倒してCLを制覇したのである。そして言うまでもなく、勝利に不可欠な戦略がタフなトレーニングの成果であるゲーゲンプレスであり、勝敗を分ける決め手になるのはドイツ人闘将自身が発散する、どこまでもポジティブで情熱的に勝利を渇望する「感情」だ。
さらに本拠地アンフィールドには、あのバルセロナ戦の奇跡を呼んだ“魔物”もいる。
奇しくも欧州王者となった6月1日、リバプールのオーナーであるジョン・ヘンリーが珍しくインタビューに答えていた。そこで物静かなアメリカ人は、クロップとリバプールの相性について「パーフェクト・マッチ」とコメントした。
「我々が良い選択をしたという考えもあるが、ユルゲンも良い選択をしたという言い方もできると思う。だってそうじゃないか。彼の気性、そしてやりたいサッカーとリバプールの相性は本当に”パーフェクト・マッチ”なのだから」
ヘンリー・オーナーの言うとおり、闘魂溢れるゲーゲンプレス戦法を持ち込んだ陽気な髭もじゃドイツ人と、思い込んだら命がけというリバプールファンの相性は抜群だ。クロップの熱とサポーターの熱。それが完璧に合致してさらにヒートアップし、あの激しいプレスを繰り返すタフな戦術を今後も後押しするだろう。
このようにクロップを中心にして、その強烈な求心力が現場と経営陣、そしてサポーターを文字通り三位一体とした。こうなると18-19シーズンの欧州制覇は、リバプールの名門復活を告げる単なる序曲か――。来季以降も“クロップ・リバプール”が、さらなる大輪の花を咲かせる可能性は極めて高いだろう。
(森 昌利 / Masatoshi Mori)
森 昌利
もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。