欧州王者リバプール、崩壊から再生への「3年7カ月」 闘将クロップが変えたものとは?

CL準決勝バルセロナとの第2戦で、2得点をあげたFWオリギ(右)【写真:Getty Images】
CL準決勝バルセロナとの第2戦で、2得点をあげたFWオリギ(右)【写真:Getty Images】

バルサ戦の奇跡の大逆転劇は、クロップの戦略と闘志がチームに浸透した証拠

 そのことは、クロップがゲーゲンプレス戦術を浸透させるのと同時に、リバプールの守備力を辛抱強く改善していったことは、ロジャースが優勝に近づいた13-14シーズンからの失点記録を順に追えば明らかになる。

 スアレスが大爆発した6年前のシーズン、リバプールは確かに101点を奪ったが、同時に50失点を記録。点は取ったが取られた点も多い。実際にこの年のトップ8のなかでは、6位トットナムの51失点に続くワースト記録である。ちなみに8位のサウサンプトンは43失点だ。翌14-15シーズンの失点は前年から3点減らし48としたが、奪ったゴールは52に激減していた。

 そしてクロップ政権が10月に誕生した15-16シーズンは失点50。クロップ初のフルシーズンとなった16-17シーズンは42失点。そして17-18シーズンが38失点。こうして補強を繰り返しながら少しずつ失点を減らしてはいたが、それでも優勝を狙うには多すぎる数字である。

 それがヨーロッパを制した18-19シーズン、ファン・ダイクを中心にした4バックが機能し、アリソンが加入してリバプールに最後まで欠けていたGKの穴を埋めると、失点数は22まで落ち、同時にクリーンシートの数も「22試合」まで伸ばした。この守備力の強化が、今季のわずか1敗という結果の根源となっているのは明白だ。

 このようにクロップ就任以来の足跡を追うと、常にドイツ人闘将が変わらぬテーマの下に戦ってきたことが明らかになる。

 基本的に毎シーズン、厳しいトレーニングを課しながら、同じメンバーで4-3-3を基本フォーメーションとして、シーズンを通じてしっかりと戦い抜いた。個々の選手に対しては、たとえ弱点と言われようが、批判が集まろうが、シーズン中の成長を期待し、決して中途半端な起用はしなかった。そうした粘り強い起用法がフィルミーノやロバートソン、アレクサンダー=アーノルドを大きく成長させ、サラーやマネを大爆発させ、サウサンプトンのローカルスターだったファン・ダイクをあっという間にバロンドール候補まで押し上げた。その一方で、肉体的にも精神的にも、激しさとタフさが求められるゲーゲンプレス戦法についていけない選手は、毎年ばっさりと切り捨てた。

 こうして現在のリバプールには、普段の猛練習も含め、クロップのサッカーに適応できない選手は見当たらなくなった。ベンチを温める選手にも、徹底的に戦略が叩き込まれている。どの選手も自分の役割を完璧に理解している。だからこそサラー、フィルミーノが不在だったCL準決勝バルセロナとの第2戦でも、4-0という奇跡が起こった。それはクロップの戦略と闘志が、今のリバプールの選手全員にしっかりと注入されている証拠である。

森 昌利

もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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