欧州王者リバプール、崩壊から再生への「3年7カ月」 闘将クロップが変えたものとは?

EL準々決勝の第2戦、ドルトムント相手に奇跡の大逆転劇を成し遂げた【写真:Getty Images】
EL準々決勝の第2戦、ドルトムント相手に奇跡の大逆転劇を成し遂げた【写真:Getty Images】

クロップ体制の運命を決めたELドルトムント戦の大逆転劇

 結果的にこのシーズンは16勝12分10敗の勝ち点60で、8位に終わった。しかしUEFAヨーロッパリーグ(EL)を勝ち抜き、決勝にチームを導いた。この過程にクロップの運命を決めた試合があった。

 それは2016年4月14日、アンフィールドで行われたEL準々決勝の第2戦である。古巣のドルトムント相手に一時は1-3とリードされた試合を終盤の3ゴールで4-3と引っ繰り返して、奇跡の準決勝進出を決めた。この試合でクロップは、劣勢になっても指揮者のようにサポーターを鼓舞し続けた。その姿がついに大逆転劇を呼び込み、リバプールのホームグラウンドにかつての興奮を取り戻したのだ。

 すると8位というリーグ順位にもかかわらず、シーズン終了後にクラブはクロップに新たな6年契約をオファーした。チームとサポーターが一つになったあの試合の熱狂を見て、リバプール経営陣は「名門復活の最後の切り札はこの男しかいない」と、クロップと心中する覚悟を決めたのだ。

 経営陣の信頼を勝ち取り、長期契約を結んで立場が強固になったクロップは、途中就任の1年目が終わると、クリスティアン・ベンテケ(現クリスタル・パレス)、マリオ・バロテッリ(マルセイユ→未定)、ジョー・アレン(現ストーク・シティ)、ホセ・エンリケ、コロ・トゥーレ、ジョーダン・アイブ(現ボーンマス)、ルイス・アルベルト(現ラツィオ)の7選手をばっさりと切る。

 そしてこの16年夏に補強したのがサディオ・マネ、ジョエル・マティプ、ジョルジニオ・ワイナルドゥム、ラグナル・クラバン(現カリアリ)、そしてロリス・カリウス(現ベジクタシュ)とアレクサンダー・マンニンガーのGK2人だった。現在のマネ、マティプ、ワイナルドゥムの3選手の成功を見れば、クロップの鑑識眼がいかに優れているかが分かる。

 しかし補強を成功させるのも、ドイツ人闘将が自分のやりたいサッカーをいかに明確にイメージし、そのうえでそうしたサッカーにふさわしい選手の資質とは何かということを完璧に理解しているからこそだろう。

 基本は「走ることを厭わない選手」だ。ゲーゲンプレスを実践するために、日頃の練習から走ることをサボらない選手である。しかもララーナくらい走れなければならない。

 また開幕から初めて指揮を取ったこのシーズン、クロップは38試合中35試合で4-3-3を採用。ロジャースの犯した過ちを正し、同じフォーメーションを繰り返すことで選手に自分の役割と、ゲーゲンプレスの有効性を徹底的に覚えこませたのである。

森 昌利

もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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